らぶ米

歌、意外とうまいんだなぁ。

三時間。二人にしては長めの時間を楽しんだ。

楽しかった。嘘じゃない。


外に出るともう外は暗かった。冬だなぁ。


「「あ」」


二人の声が重なる。見えているもの、考えていることはきっと同じだ。予想外の風景に、なんだか気恥ずかしくなる。


大きな通りに出ると、まばゆい世界が広がっていたのだ。青白い光に、ところどころ黄色、ピンク。


イルミネーション。まだ十一月下旬だというのに。でももう十一月か......。


「今日から点灯なんだよねー!」

「知ってたの?」

「あー、んっと、え、知らなかったの??」


知ってたんだ。知っててこの日に俺を誘ったのか。はは、恥ずかしそうに誤魔化しやがって。


まだまだクリスマスでもないし、カップルはそこまで多くない。でもやっぱり、点灯初日から男女で写真を撮っているのも何組かは見かけて、素直に羨ましいなと思った。


どういうわけか駅とは反対方向に歩いている。まぁ確かに、駅に着いてしまったらお別れだもんなぁ。わからなくもない。


「駅あっちだけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないな」

「いや、君がそっちに行こうとするからこうなってんじゃん!」


あ、こっち方面向かったのは俺からか!歩き慣れている道のはずなのに、方向感覚が狂ってしまったのだろうか。いつの間に、そんなことに。


「あ、ごめん、引き返すか」

「いいの!もう一駅歩けばいいじゃん」

半ば拗ねたように彼女は言う。


一分くらい、無言で歩き続けた。


不意に。


不意に彼女が俺の腕に手を絡めてきた。

違和感。

不慣れな手つきと身長差のせいで、どうにもロマンチックどころか不自然なのである。こんなことをされたら、なんかこう、もっと喜びのパニックになるものかと思っていたのに、案外冷静だ。ドキドキしないわけじゃないけど。


「らぶ米、しよ?」


彼女なりの上目遣い。余裕のない微笑み。


ラブ米、する。ラブコメ、する。

ラブコメはサ変動詞だっけ?ラブコメディとかいう名詞の省略形じゃないのか。

そんなどうでもいいことで動揺を紛らわそうとしていた。


やっぱりこうなるのか.....。自分だって心のどこかでそっと期待していたような感じがするのは否めない。


答えになるかわからないけれど。

俺はジャンパーのポケット入っていた手を出し手を繋ごうとした。しかしそんな隙すら与えられず、すぐに彼女の方から俺の腕にあった手をスライドした。。一気に指が絡み合った。温かくて細くて柔らかい子どもみたいな手だ。


らぶ米、しよ?


これが彼女なりの告白だったのかもしれない。もっと普通に言えばいいのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る