日常時々非日常
そして順調にその日を迎えた。土曜日、待ち合わせは朝10時。思ったより暑くて、長袖を着てきたことを後悔する。
「おはよー!」
「おはよ、え、化粧濃くない?」
「おぉ気づいた?すごい!絶対気づかないと思った!」
彼はというと。黒っぽい上下にジャケット。普段着姿は飽きるほど見てきたのに、街で会うとなると意外とオシャレで焦る。
放課後ではなく休日に予定したからには、カラオケ以外にもたくさん予定を詰めた。
まず向かうのはアニメイト、そして大型書店、それからローソンでおにぎりを買って食べて最後にカラオケ。本当はせっかく街まで来たんだからパンケーキを食べてタピオカを飲みたかったんだけど、相手があの人なのでさすがに我慢する。
今までずーっと無駄話ばっかりしてきて、私がダラダラして嗜められて、バカにしたり揶揄いあったり、突然ビデオ通話をかけてみたり。そんな仲だったけど、二人で並んで歩いて街で遊ぶ、なんだかまるで、俗に言うデートみたいなのは初めてだった。私の左にいる彼はよく見るカップルの彼氏とはなんか違って、私とそんなに身長差もなければ、照れた表情とか妙な顔の加工みたいなのがほぼゼロだった。私服を除けば全部いつも通り。
やっぱりこれはデートでも何でもない。
ちょっとだけそれを意識して来たのは私だけだったようで、恥ずかしくなった。
でも大丈夫、共通の趣味のためにここに集っていることに変わりはない。今日は新しいお友達と楽しむのだ!
アニメイトをひと通り見て回った。ラノベの新巻が出ていて買おうとしたら、本屋で買った方がポイントつくよと言われたので買わなかった。
本屋もひと通り見て回った。ファッション誌の新刊が出ていて見たかったけど、彼の前で女性誌のコーナーを見るのがなんだか恥ずかしくてやめた。さっきアニメイトで見たラノベの新巻を買った。彼は私のよく知らないラノベと小説の中間みたいな本を買っていた。
そしてローソンに寄った。私はツナマヨのおにぎりを買って、彼は悪魔のおにぎりとかいう謎のでっかいおにぎりを買った。イートインスペースがなかったので、食べる場所を探してさまよった。少し行くと丁度いいところにベンチがあった。ベンチの真ん中にソーシャルディスタンス用の紙が貼られているのも無視して、端に鞄を置いて二人で食べた。おいしかった。
彼がおにぎりを開けるのを失敗してご飯がちょっと溢れた。するとすぐにハトが寄って来てつまみ食いを始めた。私が足を伸ばすと飛んでいなくなった。その一連の流れがなんだかおかしくって、私は笑いが止まらなくなった。笑って、笑って、むせ返ると、「バカなの」と言いながら背中をさすってくれた。雑だけどやさしい。
気合をいれてつけてきた赤リップがもう薄くなっている気がして、信号待ちの間にそっとつけ直した。たぶんバレてない。
そして午後2時、カラオケに入る。予約をしていなかったにも関わらず、ジョイサウンドの最新機種のお部屋が空いていて、そこに通された。二人で使うにはもったいないくらい広いお部屋だった。
適当に荷物を置き、上着を脱いで、お水を用意して、選曲用の機械とマイクを持ってきた。テーブルを挟んで向かい側に彼が座っている。あ、隣じゃないんだ。
元カレは個室に入るなりお尻がくっつくほど近くに座って手を重ねてくるような人だった。嫌だ嫌だ、思い出したくない。でもそこまでソーシャルディスタンスしなくてもいいんじゃない?隣じゃないのはちょっと寂しいかも。
彼は伝票やフードメニューが入っている小さなカゴから何やら四角い袋を取り出した。四角い袋に円形の何かが入っている。
私は怖くなった。やっぱりこの人……。
怖すぎて逆におどけてしまう。
「な、なにそれ!コンドーム??」
彼は吹き出した。
「ばーか。マイクカバーだろうが。ほら、飛沫感染しないようにするやつ。飛沫感染ってわかるか?」
あ......そういうこと、ね。一気に緊張が緩和する勝手に嫌なことを思い出して、勝手に下品な連想をして、勝手に彼を疑った。はぁ、もう、自分に疲れるーー!
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