絶対的安全保証枠組条約

彼女の話の8割は聞くに値しないと思っていた。けれど。

「あーぁ、テストだるー!」

「いや勉強しろよ」

「終わったらカラオケ行きたいんだよねー」

「ふーん」

「でもさー、最近いつメンに省かれてるし」

「大変だねえ女子は」

「友達ほしいなぁ!」


「ん、カラオケ?」

「そう!」

「あ、なら俺行く」


と言うと彼女はわざとらしく変な顔をした。そんな顔するとブサイクだからやめた方がいい。


「本気で言ってるー?」

「あれ、だって友達いないんじゃなかった?せっかく付き合ってあげようと思ったのに」


「あのね、男となると別。よっぽど安全な人以外ダメなのよ。元彼が、ね〜」


何を知った事言いやがって。

と思ったが、彼女の話によると。

簡単に言えば彼女は過去に、カラオケという密室空間で、元彼に良からぬことをされそうになった経験があり、それ以来いろいろと神経質になっているらしい。

それはお気の毒だが彼女の無防備さが想像に易く笑えてしまう。


「なに笑ってんのよ、どーせ君も変態なんでしょう!」

「いやいやそれ、無防備な方も良くないよ」

「うん、だからね、男とカラオケなんて絶対行かないの!」

「いや、いつも平気でうち出入りしてるくせに。しかも親いない時に。いまさら何だよ」


「ん、あー、確かに。君の場合、信頼と実績はナンバーワンかも」

「何その保険会社の宣伝文句」

「じゃあ、いいよ!行こ!君は絶対的安全保証枠組条約いろいろと対象外だから特別にってことで」

「うわ出た〜なんでも条約つけたがるやつ」

てか枠組条約の意味わかってないだろ。


意外な情報を得た。この話、裏を返せば、少なくとも彼女は俺のことを男として意識していて、さらに信頼しきっているというわけだ。うーん、悪くもないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る