一徹無垢
午後三時半。私はいつも一緒に帰るメンバー3人で自転車に乗って学校を出た。雪が降ったら自転車は禁止される。だからこうやって自転車に乗って帰れるのももう数ヶ月かぁ、なんて思いながら。まぁ、バスもまたいいんだけどね。
「あ!」
私はひとりごとを漏らす。学校から出てすぐの通り、イヤホンをしてテクテク歩くその後ろ姿はあの人で間違いない。一瞬で見極められるほどにその姿は目立っていた。いや、ただ私に強度な感知センサーが付いているだけかもしれないんだけど。
いつもはバスで帰ってるはずなのに、なんでこんなところを歩いているんだろう。どこへ向かって歩いているんだろう。歩いていく……歩いて。
「なるほど!」
急なひらめきに再び私はひとりごとを叫んでしまう。幸い風が強くて友達には聞こえていないみたいだった。
学校から歩いて行ける場所なんて一つしかない。川沿いの大型書店!
ふははっ!私って頭いい!嬉しくなって自転車をちょっとだけ加速させた。友達に置いて行かれないようにも。
友達がこぼす妹の愚痴を聞いてあげながら、漫画の新刊の話を聞いてあげながら、私はペダルを漕ぎ続ける。そして考え続ける。
学校から徒歩15分程度の書店には、自転車だと4分くらいで着いてしまう。そして彼は今ここの書店へ向かっているんだ。それなら偶然を装って……!
信号待ちの長い交差点に差し掛かる。
「あ、今日ほしい本の発売日なんだった!ちょっと今日は本屋寄って帰るわー!」
衝動的にどうでもいい口実をでっち上げ、気づくと私は右折して書店の方へ自転車を向かわせていた。本当に来ちゃった。十数分後、彼も到着するはず!
自転車を止めて店内に入る前に、トイレの手洗い場で化粧を整えた。風で崩れた前髪を巻き直し、フェイスパウダーを塗り直す。制服のスカートをもう一段折る。リップはマスクで覆われるからいっか。これで遭遇準備OK!
少し綺麗になった私は堂々と店内に入った。もし普段から化粧バッチリのキャピキャピ系女子とすれ違ったりなんかしたら、プライベートの私を見直してくれるのも悪くないかも。
なんて妄想なんかしながら店内をうろつくと、本当に好きな作家の新刊が出ていた。
「嘘から出た誠」ってこういうことか。
ひと通り見て回ったけれどあの人の気配はない。最近すこーし気になっていたギリシャ語の本を手に取ってみたり、いつか受けてみたい英検の本を眺めてみたりして時間を潰したけれど、二十分経っても三十分経っても、彼は現れない。
と、そのとき。左手に持っていたスマホから通知が鳴る。
『ツイートのハイライト』
こんなのわざわざ通知しなくていいのに。あとで通知設定変えておこう。
でもこのハイライトは見逃せるものではなかった。そのツイートは例のあの人のもの、しかも画像つき……!
「ツイ廃男子会」と称された画像には大きなテレビとマイクを持ったクラスメイトたちの後ろ姿。明るく古めかしい色の光が写っていた。カラオケ……?
ふーむ、楽しそうでいいなぁー。
あれ、なんで私こんなところにいるんだっけ......?いよいよ自分でも不思議になってくる。もともと私は書店に用事なんてなかったのに。
駅と反対方向の地理はほとんど知らないけれど、そういえば確かに学校から徒歩圏内にカラオケがあったかもしれない。なるほど、私の読みは甘かったようだ。
今回は、私の敗北。
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