第9話
『人生は選択の連続だ。そんな言葉を聞いたことがある。
選択なくして、人生はありえない。なにをするにも、自ら選ばなければならない。選ぶということは、なにかを得るということだ。選ぶということは、なにかを捨てるということだ。そして、選ばないということは、それを選んでいるということと同義だ。そこに本質的な違いはない。
あの研究施設では、人の命を制限するナノマシンの研究が行われていた。完成したら、人類の寿命は三十年に制限されてしまう。それは人生の選択のひとつ、死を勝手に決められるということだ。あの研究が完成した暁には、人類からひとつの自由とひとつの権利が奪われる。死ぬ自由と選ぶ権利だ。どんな時代でも、どんな人種でも、どんな思想、宗教、境遇にあっても、誰にも侵されることなく皆が持っていた、死という自由と権利が奪われてしまう。
そして、その研究のために大切な人を差し出すことを要求された。
僕はそのどちらも受け入れることができなかった。
状況は絶えず変化する。ずっと同じ場所に留まり続けることなどできやしない。安寧を求めても、世界は立ち止まってなどくれない。立ち止まったつもりでいても、世界は常に前へと進んでいく。そこにあるのは、ただ取り残された自分だけだ。
選択肢はふたつだ。選ぶのか、選ばないのか。受け入れるのか、受け入れないのか。
受け入れることを選ぶか、受け入れないことを選ばなければ、小さな不満を抱えつつも平穏な日常が続いていくだろう。代わり映えのない毎日が待っている。そして、日常はより強固な壁となって変化を拒み、平穏を享受し続けられるだろう。
受け入れないことを選べば、そこにあるのは修羅だ。平穏など程遠い。日常からは切り離され、刻々と変化する世界と向き合っていくことになる。綱渡りのような選択を繰り返し、波を乗りこなさなければならない。さもなくば、振り落とされてしまう。
さぁ、選択の時間だ。選べ。自由と権利のために共に戦うのか。それとも、やがてくる喪失を日常に溶かすのか。
……もう一度言う』
『世界は、立ち止まってなどくれやしない』
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