第7話
僕らが双眼鏡を覗く先で、歩哨がひとり、テントの影に消えていった。続けざまにその奥にいた歩哨も静かに意識を刈り取られる。ズームアウトすると、あちこちで動き回る影があった。別班が着々とキャンプを制圧していっているようだ。
「行こうか」
それを見たテメルは僕らに指示を出す。歩哨を制圧してくれれば、僕らの潜入は容易い。僕らはなるべく音を立てないように、けれど出しうる最速の歩みでキャンプへの距離を一気に詰める。テントの影に身を隠しながら、キャンプ中央を進んでいく。指揮官が詰めているテントはキャンプ中央だ。周囲を警戒しながらの潜入になるが、歩哨はあらかた片付けてしまったようだ。見えるのはそこここに倒れる、よく眠っている兵士たちの足だけだった。
中央のテントの入り口にたどり着く。テメルがハンドサインでエニスとカブトルに見張りに立つように指示を出すと、ふたりは反転して周囲に視線を走らせた。それを確認したテメルは、僕を連れ立ってそっと垂れ幕をまくる。そこには、ブリーフィングで見た指揮官がいた。
テメルと頷き合い、気配をさとられないようにそっと近寄る。あと二歩、というところまで近づき、一息に首を刈り取った。椅子を蹴り払って、床へ引き倒す。そのまま腕をねじり上げて、背中に馬乗りになった。
「国連だ。あなたを逮捕する」
腰から抜いたグロッグを突きつけつつ宣言する。指揮官は視界にテメルをも捉えたのか、抵抗せずにおとなしくしている。
「私を逮捕だと……。どういうつもりだ」
指揮官は落ち着きながらも怒気を放っていた。顔面を地面に押し付けられながらも、その目は赤々と燃えている。
「罪のない村人を襲っておいて、よく言う」
「罪がないだと。先に襲撃してきたのは奴らのほうだ。むしろ我々が被害者なのだ」
「それはお前の勝手な妄想だ」
テメルが銃を突きつける。
「はっ。妄想なものか。この隊には友を失った兵士が大勢いる。上から監視するだけのお前らにわかるか、この悲しみが、この怒りが。我々の行いはなにも間違ってはいない」
腹の立つ言い分だった。稚拙な言い訳で自らの行いを正当化しているだけだ。自分勝手な解釈と理由を、武器も持たない小さな村の住民に押し付けているだけだ。胸糞が悪い。
「それは、お前らの理由だろ」
撃鉄を起こす。これ以上、聞くに耐えない。
「お前らにわかるのか。理由もなく家族が蹂躙される痛みが」
それでも、指揮官の減らず口は止まらなかった。
「知ったことか。奴らが蒔いた種だろう」
殺す。殺す。殺す。こんな奴がいるから、クロエは死んだんだ。わけのわからない被害者意識を振りかざして、自らの行いを正当化して虐殺を繰り返すクズ野郎がいるから。殺す。
「ダメだよ」
引き金を引こうとして、テメルに止められた。撃鉄の間に手を被せられる。
「こいつは連れて帰る。そこでこってり絞ろう」
「そうは──」
指揮官が口を開いた瞬間、ものすごい速度で目の前をなにかが通過した。ついで鈍い音がして、指揮官の声が途切れる。なにが起きたかわからないまま指揮官を見ると、口から泡を吹いて白目を向いていた。その顎は真横から殴打されて少し沈んでいる。
「ムカつくよね、こいつ。まぁこれくらいならいいでしょ」
テメルに向き直ると、Mk17を逆さに持ってストックを突き立てていた。どうやら、ストックで思いっきりぶん殴ったみたいだ。
「さぁ、帰ろう」
すっきりした表情でテメルは言った。
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