第5話

「今から三十時間前。アフガンのある村がひとつ消滅した」


 殺風景なブリーフィングルーム。ホワイトボードの前に立った部隊長が言った。


「襲撃したのはアフガンで活動しているフリーデンヴァッヘフィルマだ」


 ホワイトボードにはひとつの集落の航空写真がプロジェクターで投影されている。ある者は背中から胸を突き破られ、ある者は正面から頭蓋を砕かれていた。統率の取れた軍隊なのだろう。火を放ったり、陵辱したあとはないものの、みんな死んでいた。流れた血は乾いた大地に吸い取られ、死体だけが運ばれてきたようにも見える。


「人口二百人程度の小さな村だ。銃器の類は一切所持していない。ゆえに、一方的な襲撃だったそうだ」

「そのFWFってのは何者なんですか」


 ブリーフィングルームの後方から声がかかる。部隊長はそれに、


「現地に展開しているドイツ資本のPMCのひとつだ。主に戦闘員の派遣による戦線の維持を担当している」

「なんだってそんな小さな村を襲ったんですか」

「さぁな。理由はわからん」


 部隊長はため息とともに答える。みなわかりきったことだった。テメルから聞いた話だけれど、現地に展開しているPMCによるこうした村々への襲撃事件は、増加の一途を辿っている。僕らの街を襲撃した事件もそのひとつだ。そうして襲撃したPMCの取り調べをすると、みな一様にこう答えるそうだ。


『あの村に我々の部隊が襲撃を受けた』


 しかし、そのような事実はなく、実際にPMC側に損害が出た形跡はない。つまり、地域住民によるPMCへの襲撃は一切なく、ただそう思い込んだPMCが村を襲撃しているにすぎない。加えて、事件を起こすPMCは直前まで優秀だと評判の部隊ばかりだった。なぜ評判のいい部隊があっという間にただの暴力集団に成り下がるのか。その答えは、どれほど彼らと対話しても見つかっていない。


 それでも、彼らは問うしかない。いくら探しても見つからなかったとしても、なにかがあるはずだと。そうでもしないと、軍事力は単なる暴力になってしまう。自らの力はただ人を殺めるためにあるのだと、そう言われているように感じるのだろう。


『尋問担当官も頭を抱えているよ。彼らは誠に正気で幻を見ている、と』


 以前、部隊長もこうぼやいていた。


「加えて、FWFによる他の村への襲撃計画が明らかになった。これ以上、犠牲者を出すわけにはいかん。そこで、我々に与えられた任務は、現地に展開しているFWFの無力化、および指揮官の逮捕だ」


 部隊長がブリーフィングルームにいる面々を見回す。


「計画では夜明けとともに襲撃が実行されることになっている。我々はそれを阻止する。いいな」


 ブリーフィングルームに兵士たちの応答がこだまする。それはただの返礼であるだけなのに、いまだ出ない答えを求める悲痛な叫びにも聞こえた。

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