第15話

 きっかり三時間後。僕は軍用貨物ヘリのカーゴに、きちっとした正規品の装備に包まれて座っていた。今まで使っていた装備は中華製のコピー品が大半だったから、正規品は物珍しさがあった。今僕の手に収まっているのはMK17だ。腰のホルスターにはグロッグ17がさしてある。作戦に際して、僕らの装備は統一されている。平時ではMk23を持っていたテメルも、今はMK17とグロッグ17を持っているはずだ。訓練でも何度か使用した銃だけれど、AKとは段違いの正確性だった。どれだけ雑に扱っても壊れないところはAKの魅力だったけれど、それでもばらつきは無視できないくらいだった。その点、MK17は思ったところに当たってくれる。それはとても重要なことだった。


「緊張してる」


 隣に座ったテメルが耳元で叫ぶ。

 軍用ヘリの乗り心地は最悪だった。隣に座っていても、こうして叫ばなければ声は聞こえない。幸いにも乗り物酔いする体質ではないからよかったものの、耐えられない人は辛いだろうなと思う。


「全然」


 だから、僕もテメルに叫び返す。


「頼もしいわね」


 テメルはゴーグルの下で目を細めた。

 今回の作戦は突入と警備の二班に分かれて遂行される。突入はさらに三班に分かれ、それぞれが標的を確保しに向かう。僕はテメルとともに突入班に編成されていて、標的は代表のユイ・アーヴィンだった。


「まぁ、降下後はしばらく歩きよ。頑張ってついてきてね」

「大丈夫」


 説明は受けている。標的の建物から四キロほど離れた場所に降下し、そこから歩いて屋敷へ向かう。崖をロープで下降し、そこから警備班とは分かれて屋敷へ侵入。標的を探す。標的を確保したら、今度は川の下流へと下り、ランデブーポイントで回収を待つ。


 言うだけなら簡単だけれど、そこには兵士たちが待ち構えている。それも、優秀だったと評判のMSCの兵士たちだ。そう簡単には行かないかもしれない。とはいえ、これは僕が望んで参加した任務だ。連中をひとり残らず確保する。その意気に変わりはない。それで折り合いがつくのか、結局答えは出ないままだったけれど、今は任務をやり遂げる以外にない。


 そうしているうちに、作戦領域に到着した。僕ら十二名はそれぞれ地上に降り立つ。午後六時四十分。日は傾きかけていて、潜入にはもってこいだった。けれど、同時にタイムリミットも迫っている。できれば、標的が会合を始める前に個別に確保したい。会合が始まってしまえば、その場を守る兵士も配置されるであろうからだ。そうなってしまったら、接敵は免れない。


 斥候は第三班の隊員が務めた。僕らに先行し、数百メートル先を行く。僕らはそれに沿ってひたすらに森を進んだ。降下地点から作戦領域まで距離があることもあって、行軍ペースはとても早かった。会合まで一時間と少し。時間はそう多くは残されていなかった。


 早いペースでの行軍を、僕はものともしなかった。もとより便利屋で様々な仕事をこなしてきたこともあって、体力的に負担にはならなかった。そしてなにより、この先に家族を屠った連中がいるかと思うと、斥候すら置き去りにして突撃してやりたいくらいだった。


 MK17と、多様な装備を抱えて、生い茂る森を淡々と走る。森を走るうちに虎になった男の話を、ライアンから聞いたことがあった。彼は咆哮し、走り、やがて四つの手足で地を蹴り、何者にもひるまぬ獣となった。僕はどれだけ人間でいられるのだろうか。獣ではできないことをしなければならない。たとえ失うものがもうないとしても。連中に対する殺生与奪の権利が僕にないのだとしても。……今さらひとりやふたり。そんな囁きが聞こえた気がした。

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