第7話
「気分はどう」
聞き覚えのない声に、思わず上体を起こした。
たったそれだけのつもりだったが、気付けば女に支えられていた。
「いきなり起き上がってはダメよ。スタンで耳をやられてるし、ぶん殴られたことによる脳震盪、おまけに右手の骨折。安静にしてなさい」
押さえつけるように、ベッドに寝かされる。視界がぐるりと回って気持ちが悪い。
それでも、聞かなきゃならない。
「あんた、誰だ……」
回る視界をこらえて、女をにらみつける。
一番に目に飛び込んできたのは、その力強い目元だった。きりっとした二重に彩られた、意志の強そうな蒼い瞳。きつく後頭部で結わえた髪が一層凛々しい印象を与える。薄めの唇は微笑みを形作ってはいたものの、少し窮屈そうだ。
「テメルよ。所属は
言って、テメルは左手を差し出したが無視して続ける。仲良しこよしがやりたいわけじゃない。
「ここは」
テメルはふてくされたようにと唇を尖らせたが、すんなりと教えてくれた。
「イスラエルにある国連管理下の病院よ。あなたを保護、治療しているところ。安全だから、安心しなさい」
言われて、右腕を見やる。
ひじから先が石膏で固めら、隙間から点滴のチューブが伸びていた。
「医療用ナノマシンよ」
視線に気づいたのか、テメルが補足する。
「体細胞に作用して外傷の治癒を助けてくれるわ。大人しくしてれば、二週間ってとこね」
医療用ナノマシン。最近、先端医療として普及していると聞く。だが、実際に処置を受けるのは初めてだ。病院に世話になったことなど一度もない。
「それで、他のみんなは……」
「……」
テメルが黙った。少しだけ目が伏せられる。
その表情が、すべてを物語っているように感じた。
「みんなは」
でも、はっきりさせなきゃならない。だから、言いつのった。
「……助けられたのは、あなたと、女の子がひとりだけ」
「……クロエ」
すがるように問う。しかし、テメルの表情は晴れない。それがすべてだった。希望なんて、どこにもないのだ。
「いいえ……オリビアと、名乗っていたわ」
僕の中に残っていた最後の良心みたいなものがすっと抜け落ちていったような気がした。もう僕の中には、がらんどうの暗闇しかない。そして、もう二度と、戻ってくることはないだろうとはっきりと自覚した。
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