第3話 文芸部に向かう理由
次の日。
帰りのホームルームの時間になってから私は今日も文芸部に行かないといけないのかと疑問に思う。
そりゃ文芸部員なのだから毎日向かうべき、でも何もしないだろうし。行くべきなのかどうなのか悩んでいると肌に纏わりつくような湿度を感じる。
雨がポツリポツリと落ちてきていた。
私の髪は湿気を含むと直ぐにくねくねと曲がり始める不良品。
いくら自分の容姿に期待していない私でも流石にひどすぎる髪型にはなりたくない。そんな不純な動機で今日も部活に向かうことを決める。
「おーい、もうすぐ入学してだいぶ経つが10代の1年は30代の10年くらい大事で成長できるからな、大事に過ごすんだぞ」
部活動に向かいたくて落ち着きがない生徒、友達との話に夢中になっている生徒。そんな青春をしているクラスメイトは聞いてはいないだろうが私はしっかり聞いていた。
以前までの私だったら吹奏楽部の今日の活動が気になって聞いていなかっただろう。今は何もしていない自分の事を言われているようで意識してしまう。
私は本当に文芸部で過ごしていいのかな。
曇りの空を見ながら考える。考えても仕方がない、とりあえず漠然とした不安を振り切るように部室に向かう。
部室がある特別校舎に繋がる渡り廊下を歩くと木の香りを感じる。床もゴム張りの床からコンクリートが剥き出しの床に変わっている。
「失礼しまーす」
フミ先輩は部室中央のテーブルのあたりにパイプ椅子で座っていた。綺麗な人がパイプ椅子に座ると素材を引き立てるのだと知る。
私も習うようにフミ先輩の向かい側に座る。
今日も昨日と変わらない、フミ先輩は本を静かに読んでいて…読んでいない。私が入ってくるまでは読んでいたのだろう。分厚い本はテーブルに真っ直ぐ置かれている。
「あの…フミ先輩。この部の活動ってその」
流石に何もしないのかとは聞けず遠まわしに聞こうとして詰まる。
「その話をしようと思ってたんだよ。来月に文化祭があるのは知ってるよね? そこで文芸部としての文集を毎年出しているの」
フミ先輩はテーブルの下に置いてあった紙の束を出してくる。数十枚の束になった特殊な様式の原稿用紙。
端をクリップで止められた紙束は全て手書き。
「あの、文化祭まで1か月なんですよね、間に合いますかね?」
フミ先輩は焦るわけでも無く説明を続ける。
「うん、もう内容は書き終えているから後は製本するだけだから」
なるほど。これ以上書き足す内容は無いようだ。
フミ先輩が口に出す前に私から言う。
「じゃあ、その製本作業は私がやって良いですか?」
フミ先輩は言おうとしていた言葉を先に言われて少し驚いているようだ。
「うん頼むね。もちろん私も協力する」
フミ先輩は少し嬉しそうだ。
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