第4話 生徒会室
生徒会室の前にひとり立ち続けている。
文集を作るには編集用のパソコンが必要だった。
しかし文芸部にはパソコンが無い。私も自由に使えるパソコンを持っていないので困っているとフミ先輩がアドバイスをくれる。
「生徒会に行けばパソコンを貸してもらえるから」
フミ先輩に助言してもらい私は生徒会室に足を運んだのだがこれまた困っている。
文芸部がある校舎と違い、ここ数年で新築された校舎に生徒会室はある。
歪み一つないぴったりと閉じられた扉は入りにくいオーラを放っている。既に数分は生徒会室の前で右往左往してしまっている。しかし、ここは吹奏楽部の練習場所とも近い。吹奏楽の部員と偶然会ってしまうのも嫌だという感情が私を決心させてドアノブを握らせる。
ドアノブを引く力より強い力で手と体を生徒会室の方に引っ張られる。
「わっ!」
前に引っ張られて生徒会室の絨毯を踏む。内側に開いた扉で中に引き込まれた私を生徒会室の中の役員は驚いて見ている。
「おっと、どうかしたの?」
複数の視線で声がたどたどしくなりながら、パソコンを借りに来たことを伝える。
「あぁ…文芸部ね。それならこの用紙に用途を書いて提出してね」
少しだけ余裕が生まれてきて対応してくれた人を確認する。
フミ先輩に負けず劣らずの美人な人だと思う。しかしフミ先輩とはまた違った美人。身のふるまいに出ている上品さと力強い瞳はフミ先輩には無い活力を感じる。
「先輩…美人ですね」
自然と言葉が出ていた。
「どうしたの急に、それに文芸部の部長さんを毎日見ているでしょ嫌味?」
先輩は照れる訳でも無く私にジトっとした視線を送ってくる。
「嫌味なんて、そんなわけないじゃないですか」
苦笑いをして顔の前で手を否定の意味をこめて振る。私としたことが余計な事を言ってしまった。
しかし、そんなこと以上に気になることがある。
「フミ先輩を知ってるんですか?」
少し声のボリュームを間違った気がする。再び役員の注目を集めてしまう。
「知ってるも何も私、元文芸部員なのだけど」
更に驚いた。あの文芸部に先輩以外の部員が居たことがあったなんて。
私はポケットからスマホを取り出す。
「先輩! 連絡先を交換しましょう」
スマホの画面に表示された連絡先。登録名は新堂麻子。先輩の名前だ。
生徒会から借りてきたパソコンはだいぶ旧式のタイプだった。以前は白かったのだろうが黄ばんでしまっている箇所が散在していた。
そんなパソコンよりスマホに表示されていた新堂先輩の名前を見る。名探偵になったような気分だ。文芸部に入ってまだ2日だがフミ先輩に頼りきりだった私だったけど何故か勝ったような気分になる。
「どうかしたの? 嬉しそうだけど」
フミ先輩はスマホを両手で持って変な顔をしている私を不審に思ったのかもしれない。
「なんでもありません、作業しますね」
元文芸部員の新堂先輩。フミ先輩とは接点があるだろうが連絡先を交換したことは黙っていよう。
パソコンに入っている「執筆王」といういかにもなソフトを起動する。
重いソフトなのか、それともパソコンのスペックが足りないのだろうか起動までにパソコンの横にある紅茶を数口含む余裕が生まれる。
作業ができる画面になるとそもそもの問題に気が付く。以前の文集のデザインなどを参考にしなければ文集など作れない。
起動した執筆王のトップ画面に広がる白い空白から視線を移してフミ先輩を見る。忙しくはなさそうだ。
「フミ先輩、以前の文集ってありますよね?」
フミ先輩は少しの間を置いた後に部室の奥から文集を出してくれる。
10冊ほど積まれた文集。先輩は何故か暗い表情をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「お手洗いに行ってくるね」
部室を出てしまう。文集は10冊あったがフミ先輩が1年生だった頃。つまり1年前の文集から読み始めることにする。
厚紙に挟まれたページには内容の濃いが分かりやすい書評が書き込まれていた。普段本を読まない私でもこの文集を読んだ後ならドヤ顔で本の知識を話したくなるような出来だった。
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