第3話 運転
とはいえ、やはり運転手は雇うことにした。その人はもちろん俺より年配の、まるで映画化ドラマに出て来るような、やせて、神経質そうで、いかにもきちっとした人だった。
「こういう運転手が良いんだよ、君が偉く見えて、じかに話すと今度は気さくな人間と見える、一石二鳥だ」
さすがに占い師と懇意にしている人だけあって、説得力があった。
だが、だ。実は俺は車の運転が大好きなのだ。運転しながらスマホなどは見たことがない、一人リラックスできる時間で、また。次々仕事上のアイデアが浮かぶことの方が多かった。
それが出来なくなったせいか、少し順調だった会社の成長が足踏み、また下降へと向いてきた。それこそ「占い師に相談したい」状況になり、彼に連絡した。
「今彼女も忙しくてね、一週間後にならと言っているよ」
と、ほんの少し冷たいような感じもした。だが、とにかく気分を落ち着けようと、一人きりでドライブをすることにした。
「ああ、やっぱり色々な考えが浮かぶな、やっぱりこうしなきゃいけなかったんだ」
と今までの失敗の原因が手に取るように分かり、すぐさま会社に向かおうかと思ったら、何かの音が聞こえてきた。エンジン音だ。
「そうか、ゴーカート場があった、前はよく行っていたっけ」
久しぶりにやってみようと思った。
「ああ、社長、お久しぶりですね」
会社がちょっと上手くいかなくなると周りの人間は掌を返すように変わるが、それを知らない人は前と同じように接してくれる。
「ええ、久しぶりですね、また、無制限でいいですか? 」
「太っ腹ですね、社長」
ゴーカートは大体数分で何千円だが、ここでそんなケチな事はしない。
「じゃあ、行きますね」
丁度人もまばらだったので、思いっきり速度を上げて急カーブも上手く回れた。
「社長うまいですよね! 」お世辞もうれしく思っていたが、だんだんと熱くなってきた。
「ああ、ヘルメット邪魔だな、暑い」
と速度を落として流して走行した。
「社長、すいませんがヘルメットは絶対付けてください」
「ああ、ごめんちょっとだけ、あまりに暑くて」
「社長、厳しくなったので、お願いします!! 」
エンジン音に負けないくらいの大声がうるさいので置き去りにして走らせた。
「何だよ! 高い金を払っているんだ! ほんのちょっとじゃないか!! 」
速度を上げて、カーブに入った。曲がり切ろうとしたが、車体が横滑りしだした。
「あ! まずい!!! ヘアピンカーブだった!! ヘアピン!! 」
物凄い音がしたと同時に、強烈な痛みが頭に走った。
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