異種間復興祭
外山コウイチ
異種間復興祭
その大祭、夜祭を見た者は、仮装行列だと思うだろう。
二足歩行で歩くカメレオン。宙に浮き漂う一つ目の妖怪。灰色と水色の混じったリトルグレイ。目には見えないが、透明人間もいる。なんと珍奇な光景だろう。おおよそ信じることは出来ない。
しかし、これは間違っても仮装なんかではなく、本物だ。全てが、嘘偽りなく存在している。
この祭りの目的は、異種間の仲を取り持つ為にまずは接触してみよう、ということであった。その他にも一応はあるが。
そもそも、仲間という概念が異種間に生まれるのだろうか。という疑問が一般論であり正論である。だがしかし、地球も宇宙も広いのだ。
突然、動物が突然変異を起こしたり、遠い銀河から知的生命体がやってくるのもなんら可笑しくはない。
それでも、偏見と文化の違いが有るのは必然だ。種の幅が狭い人間にだって、差別はあるのだから。
その差を無くす為、互いの文化を受け入れる為。この祭り、総称「異種復興祭」の開催が行われた。それには当然、人間も参加できる。参加する人間には、学者や政治家が多くなった。
学者たちは自分の分野に関係のある動物や植物、宇宙人に話を聞いた。返ってくるのは、鳴き声とよく分からない言語ばかりだったもので、学者たちは研究を諦めた。
政治家は、どうすれば自国の経済はよくなるのか、異種間談義を決行した。だが、談義はテレパシーを使えるゼリーのような形をした宇宙人の「経済なんて、俺たちに聞いてもどうしようもないだろ」という一言で即お開きとなってしまった。
どうも悲しい結末が多いようだが、学者の中には得をする者もいた。
まず、透明人間と話した科学者。見つけるのに大分と苦労したようだったが、透明になる作用を聞き出すことができた。
早速、科学者は自身の腹上にガラスを重ね、それを押し込み続けた。すると、だんだんとガラスがめり込み、科学者の腹は透明と化した。なんと、透明人間は透明ではなく、ガラス人間だったのだ。
科学者はそれを知ると、充足して家へ帰っていった。その後、彼の姿を見た者はいない。彼の家には、割れたガラスの破片だけが残留していた。
また、妖怪研究家も得をした。
何十年も研究を続けていたのに一度も見ることのできなかった妖怪たち。それが、今や周りにたくさん群をなしている。至上の幸福であり、研究心は舞い踊っていた。
尚早に彼は西洋風のゴブリンや北欧風の妖精にも話を聞こうとしたが、言語が伝わるかどうかわからないので止めにした。そのかわり、古風な、いかにも日本育ちのような妖怪たちにインタビューをした。人間を脅かした経験とその感想、妖怪にも寿命はあるのか、などの込み入った話題を中心に。
すると、妖怪たちは快くインタビューを承諾してくれた。どうやら、おどろおどろしい印象とは異なり、温厚なものが多いらしい。
雪女は、周囲に雪の結晶を落としながら「人間は私を見ても驚かない。いつからかしら、こんなに郷愁を感じるのは・・・」と震える声で経験談を語った。それに加えて、悲しみに暮れると雪女は雪を発生させるとも言っていた。この積雪現象はビッグフットなどの雪国育ちの妖怪の共通点らしい。彼らが吹雪の中でしか人間の前に現れなかった理由は、人類との
続いて、
はた迷惑だと罵ろうとして、彼は奮起した。その気負いも空しく、火車の方が会話の口切りが早かった。
「人っていってもにゃぁ、オラが
どうやら妖怪研究家は火車の話に興味を持ち、憤慨を止めたようだった。
彼が「なぜ上の身分だと、喜ぶんだい?」と疑問を呈すると、火車は「そりゃ、苦難に満ちた生涯を帯びた魂のほうが価値が高いからにゃぁ」と語り、誇るように車輪にまとう炎を
「価値の高い魂は旨い。
火車は一通りを語り終えると、向き合っている妖怪研究家を見て舌なめずりをした。彼は火車の話をメモしていて、殺意に気づくのに遅れた。だが、
火車が空腹を満たしている間に、妖怪研究家は大急ぎで大祭の入り口まで逃走した。途中、付喪神の憑いていた懐中時計を踏みつぶしてしまった。彼はあまりにも焦っていたので、それに詫びることはせずに走った。しかし、付喪神仲間の「殺したな!よくも人間ごときがぁ!」という罵声は耳に響いていた。彼は不謹慎ながらも、妖怪にも寿命があることが分かってしまった。
寿命の有無を確認した瞬間、彼は大祭の入り口である鳥居ではなく自分の車を停めた駐車場まで来ていることに気が付いた。冷や汗かは分からない、脂汗かもしれないが、背中はぐしょぐしょに濡れていた。そして自分の靴裏を確認し、また汗が肩甲骨を伝った。原型をとどめていない懐中時計は、憎しみの顔を長針と秒針を眉として作り上げていた。それを供養する為、彼は駐車場の脇にある街路樹の根本に懐中時計を埋めた。一つの命、魂を殺してしまった・・・。
どうも気持ちが悪くなり、妖怪研究家が家に帰ろうとしたその時だった。耳に「マイクテストです」と人間の声が反響した。彼が驚いて腰を砕けたと同時に、その声は異種間復興祭について話し始めた。ひどく、間の抜けた声質だった。
「えー、この度はどーも。集まっていただいてね、光栄に存じます。異種のみなさん。私はこの祭りを開催させてもらいましたー、えーね、つまり主催者です」
主催者という単語が現れると、大祭側の方角からどよめきともいえる歓声が
「えぇ。まぁね、この祭りが
・・・そこで、異種の方々に協力を要請したい。経済問題には、少子化が発端と言えるものが少なからずある。働き手の不足が特に重大ですかね。それを踏まえて、異種の方々には我々の国で暮らしていただきたい。もちろんただ働きはさせません。それに、いつでも仕事を辞めていただいて構いません。そんなことをしてしまえば、醜い過去へと回帰してしまいますからね。
とりあえず、妖怪の方にはそれぞれの得意分野に合った仕事を企業から貰い、宇宙人の方はご自分の星で行われている政策を教えてください。宇宙人の方は、政策を教示された後、こちらで処遇や仕事などを決めさせていただきます。ご不安の方やご質問のある方などいましたら、『異種復興祭管理委員会』までお知らせください。
楽しい祭りの場を借りて、こんな堅苦しいことを長々ともーしわけありませんでした!ぜひ、今夜はお愉しみください。どんなに騒いでも結構です!それでは、またお会いしましょう!」
最後の挨拶は、序盤の語りと同じ声質になっていた。どんちゃん騒ぎが大祭の方向から聞こえる。
妖怪研究家はまた祭りへ行こうとは考えず、陰鬱な心境のまま車にアクセルをかけた。彼は車窓に映る静観でどこか
妖怪研究家と火車は、帰途についた。車庫で一人、彼は涼しい夜風に吹かれている。なびく庭の雑草が、彼にタバコを連想させ、吸わせようと誘惑しているかに思えた。これも妖怪の所業かもしれないと、彼は小さく微笑した。本当に小さな、穏やかな笑いの後に、彼は大きな決断をした。彼はその瞬間から、妖怪研究家でなくなり、しがない八百屋の跡継ぎとなった。タバコの火種が、彼の心境のように宙に舞う。彼は、何十年かぶりに実母に電話をした。その声は、少しながら涙ぐんでいた。
【数年後】
日本は経済問題を順調に解消し、環境問題もほとんどなくなっていた。少子化も一様は減少傾向にあった。内閣総理大臣は知能の高いグレイ人が受け持ち、その他の重要な役職も宇宙人がこなしていた。庶民の生活は、妖怪の影響により大幅な改善と便利さを見せた。
だが、日本に人間はもういなかった。なにも自らで生み出すことのできない、ましてやゴミだけを産出する劣等種族だ。と気づいた妖怪や宇宙人らに殺戮されたのだ。
そのまた数十年後、人類は完全に滅亡した。全ての大陸を人類以外の生命体が支配した。
いやはや、「考え方の違い」とは恐ろしいものである。
異種間復興祭 外山コウイチ @Toyama_Kouichi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます