俺の運命の相手は後輩じゃなくてお前だったんだ

伊崎夢玖

第1話

「先輩、付き合ってください」


俺の高校の一年でかわいいことで有名な鷹藤結愛たかとうゆあが俺に告白してきた。

俺はどこにでもいるモブ。

モテ男の条件であるような、かっこよさがあるわけでもないし、運動ができるわけでもない。

どうして結愛が俺に告白してきたのか理解できなかった。


「どうして俺?」

「先輩にこの間助けてもらったんです」

「それで?」

「一目惚れです」


まさかの一目惚れ宣言。

しかし、俺には彼女がいる。

同じクラスで隣の家に住んでいる、幼馴染の山岸亜理紗やまぎしありさ

もうすぐ付き合って2年になる。

そんな存在がいるのに、もったいないが結愛とは付き合うことはできない。


「申し訳ないんだけど、俺には…」

「いや!それ以上聞きたくない!」


結愛が俺の首に腕を回して抱きついてきた。

その時結愛は自身の豊満な胸を押し付けてきた。


「先輩に彼氏になってほしいんです!ダメですか?」


結愛は潤ませた目でこちらを見てくる。

胸を押し付けられ、潤んだ目で見つめられて堕ちない男がいるだろうか。


「……うん。付き合おうっか」

「ありがとうございます!大好きです!」


ニコリと笑う結愛はまるで天使のようだ。

亜理紗には申し訳ないが、この笑顔に勝つ女はいない。

この子を彼女にしたことをこの時は全く後悔していなかった。


◇   ◆   ◇   ◆


「悪いけど、好きな子できたから別れてくれ」

「あっそ。さよなら」


罵詈雑言を浴びせられると覚悟して別れを切り出したのに、亜理紗は至極あっさりと別れることを了承してくれた。

少しは苛立っているかと様子を窺ってみたが、全くそんな素振りを見せない。

――そこまで俺のことを好きじゃなかったのかもしれない。

そう思うと先程まで感じていた罪悪感は薄れていった。


◇   ◆   ◇   ◆


数週間が経った。

結愛との交際は順調だった。

ある一点を除けば。


「先輩、あれ欲しい」

「この間似たような物買ってやっただろ?」

「あれはもう飽きたの!新しいの買ってよ!」

「……はいはい」


結愛は次から次へと俺に強請った。

自分の財布は痛めることなく。

俺の財布はどんどん寂しくなり、ある日とうとう底を突いた。


「ねぇ、先輩――」

「すまん。もう何も買ってやれないぞ」

「はぁ!?」

「もう金がないだよ」

「親に借りればいいじゃん。バイトもすればいいじゃん」

「そんなに欲しいなら、お前の金で買えばいいだろ。俺は一銭もないからな」

「……じゃぁもういい。別れる」


結愛は地面を踏みしめるかの如く、怒りに満ちた足取りで帰っていった。

正直結愛との交際は楽しかったが、あの浪費癖だけは許容できる限度を超えていた。

円満というわけではないが、別れることができて、どこかほっとしている自分がいた。


「おかえり」

「…おう」


いつの間にか家の前に着いていて、家から出てきた亜理紗が買い物に行こうとしていた。


「買い物?」

「うん。豆腐買い忘れたから」

「暗くなるから付き合う」

「いいよ。デートで疲れてるんだろうし、無理しなくていいよ」

「……あの子とは別れた」

「何で?」

「毎回何かしら買わされて、金が底を突いた」

「まぁ、そうだろうね」

「知ってたのか?」

「有名な話だもん」


亜理紗は自転車を押して、俺の隣に並んだ。


「ついてきてくれるんでしょ?」

「……あぁ」


ただ無言でスーパーまで歩き続ける。

沈黙な空間。

それなのに、なぜか安心感があった。

幼馴染だから?

元カノだから?

理由は分からない。

無言で歩き続け、スーパーに到着した。

その頃には日は暮れ、あたりは闇に包まれていた。


「ちょっと買ってくるから、ここで待ってて」

「いいよ。荷物持ちくらいする」


二人で店内に入り、俺はカゴを持ち、亜理紗の後を追った。


「豆腐、豆腐……あった!」

「それだけ?」

「ん~、甘い物買っちゃおうか」

「いいのか?おばさん怒るだろ」

「内緒にしてくれたら半分あげる」

「……分かった」


俺が甘い物に目がないのを知ってて、亜理紗は悪事を持ち掛けてくる。

亜理紗が悪事を働く時はいつも俺と一緒だった。

いつもなら買わない少し高いチョコレート菓子をカゴに入れ、レジに進み、会計を済ませる。


「帰ろっか」

「そうだな」


行きと同じように帰りもほとんど会話らしい会話はなかった。

先程買ったチョコレート菓子を二人で食べながら帰路に就く。

なぜ亜理紗とは無言でも心地いいと感じるのか、俺はずっと不思議だった。


「今考えてること、当ててあげようか」


いきなり亜理紗が口を開いた。


「……この沈黙が心地いいのはなぜだろう、とか?」

「どうして分かった」

「アンタの考えることくらい手に取るように分かるわよ」

「なんで?」

「伊達に幼馴染を今までやってないから」

「それだけ?」

「あとは――」

「何?」

「好きだからって言ってんの!!!」


まさかの告白だった。

亜理紗が自分の気持ちを口にすることはない。

俺達が付き合っていたのだって、自然の流れのようなものだったから、お互いどう思っているのかなんて知らなかった。


「好きだったのか?」

「当たり前でしょ。好きじゃない奴となんか付き合ったりしないわよ!」

「あっさり別れを承諾したから、好かれてなかったと思ってた」

「はぁ!?バカじゃないの?」

「普通好きだったら、食い下がったりするじゃん」

「新しい彼女が普通ならね。でも、今回は違ったから」

「結愛?」

「そう。あの子が相手なら、いずれあたしの元に戻ってくるって確信してたから」

「マジで?」

「うん。マジで」

「すげぇな。お前…」

「ここまで思ってくれるようないい女を捨てるなんてバカね」

「本当だな」


一歩一歩歩みを進める。

あと数メートルで亜理紗の家に着く。

ここで怯んでは男がすたると思った。


「なぁ、亜理紗」

「何?」

「俺も亜理紗が好きだ」

「知ってる」

「もう別れようとか馬鹿なことは言わない」

「当たり前でしょ」

「もう一度、俺と付き合ってください」

「……はい」


そっぽ向いた亜理紗の表情は俺からは全く読み取れない。

でも、少しだけ変化は見られた。

耳が真っ赤だったのだ。

普段は照れたりしない亜理紗が、ものすごく照れている。

それを知れただけでも俺は幸せだった。

亜理紗を捨てるような愚かなことはしない。

俺は亜理紗だけを生涯ずっと愛し抜くんだから。

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俺の運命の相手は後輩じゃなくてお前だったんだ 伊崎夢玖 @mkmk_69

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