君の行く場所『未完成』

《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ

君の行く場所『執筆中』

「母さん、父さん、ただいま」


木で造られた素朴な家。扉を開けた先には、台所で料理を作る女性と、椅子に座って新聞を読む男性の二人。


「おかえりなさい、ハルキ」

「おお、ようやく帰ったか」


優しげな笑みをこちらに向ける二人に、僕は頬をかく。


「今日は皆からの頼み事がたくさんあったから、いつもより遅くなったんだ。その分、報酬はたくさんもらえたよ」


腰にさげた袋を見せると、母はそのまま料理を机へと並べだす。


「もうすぐ夕食ができるから、着替えてきなさい」

「うん、分かった」


僕は自室へと向かうと、外出時の装備を取り外し、普段着に着替える。


食卓につくと、ドタドタとこちらへと走ってくる音。


「あ、お兄ちゃん。おかえり!」

「ただいま、ユウナ」


妹であるユウナはえへへと恥ずかしげに笑い、僕の隣に腰掛ける。


『いただきます』


麦のパンと、野菜が盛り沢山のスープ。ソースをかけた牛肉に、新鮮なミルク。


決して特別ではないけれど、腹を満たすには充分な食事。ゆっくりゆっくり噛み締めて、一つずつ食べきる。


食後は膨れたお腹が落ち着くのを待ちつつ、明日の依頼に向けて準備をする。


「お兄ちゃん。お風呂沸いたよ!」

「ありがとう、ユウナ。もう少しやることがあるから先に入っていいよ」

「うん。なんなら私と一緒に入る?」

「馬鹿なこと言ってないで、入ってきなさい」

「ちぇっ、お兄ちゃんのいけず。入れてくれって言っても知らないんだからね!」

「はいはい」


走り去っていくユウナの姿に苦笑を浮かべ、作業を再開する。


僕の仕事は、僕達が住むこの村『三瀬村みつせむら』の何でも屋。村人からその日の依頼を聞き、彼等が提示した報酬をもらう。やることは力仕事から細かな作業、ときおり頭脳労働といったところだ。


毎日大変ではあるが……まあ、やりがいのある仕事だ。家族の役に立てていると感じられて、日々満ち足りている。


明日も頑張ろうと意気込み、夜は更けていった。




「坊主、今日はこれを頼む」

「はい、




















瞳をあけると、視界に映ったのは白だった。そこが病室であり、僕がベッドに横たわっていると認識するのに、長い時間を要した。


「……お兄ちゃん!?」


ボーッとする頭に、少女の高い声が響き渡る。声の方向へ視線を向けると、そこには驚愕した表情の少女――僕の妹である、優奈がいた。優奈は駆け寄ってくると、僕の肩を強く掴む。


「お兄ちゃん!私!私のこと、分かる!?」

「…う、う、う」


喉が貼り付いたかの様にうまく声がでないうえに、遠慮なしにガクガクと揺さぶられるため、気分がだんだんと悪くなる。優奈は唸るばかりで答えてくれない兄の姿に、余計に力を込めてしまう。


「優奈、落ち着きなさい。春樹、私達のことが分かる?」


後から病室へと入ってきた女性が急いで優奈を引き剥がし、男性が水の入ったコップを僕に渡しながら、むせる僕の背中を撫でる。


「ごほっ、ごほっ……。ぼ、僕の名前はたちばな春樹。二人の息子で、優奈の兄で……」


そこまで言うと、母はがばりと僕を抱き締める。それは痛いほどに力強く、しかし決して不快ではないものだった。


「ごめんなさい……!ごめんなさい……!あなたに辛い想いをさせて、ごめんなさい……!」

「……春樹、すまなかった。私達が、もっとお前に配慮していれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに……」


両親の様子からは、かつていがみ合っていた様な険悪さは感じられない。優奈は少し離れた場所から、沈痛な面持ちをこちらに向けている。


「あなたが事故にあって、意識が戻らなくなって、私達、考えたのよ。どうしてこうなったのか、何があなたを追い詰めたのか、意識が戻ったら、どうすべきか、もしも意識が戻らなかったら?ねえ春樹、あなたはどうしたい?私達に何をしてほしい?私達に何ができる?なんでもいいのよ、どんなに些細なことだって、キツいことだって、言っていいの。それとも私達を許せない?なら許さないでもいい、償ってみせるから。あなたに許してもらえるまでどんなことだってしてあげるわ、だから……」


母の言葉は、途切れ途切れで、支離滅裂で、震えていて。だけど確かに、そこには僕のことを案じる優しさがあった。同時に、僕に対する怯えがあった。

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君の行く場所『未完成』 《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ @aksara

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