第2話 悪女からの贈り物
「脅かしてごめんね。あたしはアメリア。あたしら絞首刑にされちまうから、ちと逃げ回ってんの」
アメリアがニイと笑ってリーベルの隣に腰を下ろす。
「……こうしゅ……え…悪い方、なんですの…?」
「そうだよ。国家反逆罪さ。実は悪くてこわいおばちゃんなんだ」
「失礼だね。貴婦人様と呼びな」
「そーよ。あんたもこの子から見たらおじちゃんなんだから」
男がサーベルを鞘に収めながらからかうように言うとアメリアがチッチと指を振り、盗賊女が陽気に鼻で笑う。その様子はとても楽しげに見えた。
アメリアの連れの女がリーベルの前にしゃがみ込む。日に焼けた肌の、多分南方の民族だろう。
「あ、もしかしてあんたこの先の宮殿の子?聖女になるって噂の」
その言葉にリーベルが俯く。
「……それは…私じゃないです…」
「ん。あんたは聖女にゃもったいない」
アメリアがリーベルに顔を近づけ目を覗き込む。
「あんたの目の奥にはあたしと同じ鬼がいる。あんた、世界を揺るがすとびっきりの悪になれるよ」
「あくやく…」
よく分からないけど魂が解放されるような…なんて良い響きだろう。リーベルはそう感じた。
不意に貴婦人が脇腹を抑えて顔を歪めた。
「!アメリア様…お怪我をなさっているの…?」
「ああ、ちょっとね…」
「ちょっとじゃねえよ。無理しちゃいけないんだ」
男と女がアメリアに寄り添う。
「あの……」
「何だいお嬢ちゃん」
「お加減が良くなるまで、ここでお休みください。わたくし、お薬やブランケットなどお持ちいたしますわ…」
意を決した様なリーベルの様子に3人はキョトンとしていた。
「いやでもね、さっき言った通りあたしら犯罪者なのよ」
「お前理解してんのか?それともタレこむつもりか?」
疑う様な男と女の様子にリーベルはその様子に気圧されながらも首を振った。
「さいわい、わたくしの言う事なんて誰も信じません。悪い方でも、お怪我をなさっている方を見殺しにはできません…」
それからというもの、リーベルは影の薄さを利用して少しずつ包帯や薬をくすねて毎日森に通った。
ブランケットを手にして森に入って行く後ろ姿を見たマリア他メイド達は
「あの子ついに森で野宿するつもりだわ、可哀想に」
と同情した。
アメリアの傷はそのお陰で日に日に落ち着いて来たようで、最初は懐疑的だった2人もいつしか心を許すようになった。
リーベルが番犬が怖い事や、メイドの怠慢について涙ながらに話す代わりに、アメリア達から聞く外の世界の楽しく時におぞましい旅の話は心が躍る様な内容だった。
スコップで地から湧き出るアンデットを倒し続けた話。西の果ての聖殿から宝を盗んだ話。南方で盗賊女のニキータと出会い、激しい闘いの末に仲間になった話。古代神殿に閉じ込められた話。そしてアメリアと盗賊男、ギースとの出会いの昔話。
「お嬢ちゃんも大きくなったら世界中旅しなよ。自分の足で歩いて、自分の目で人と世界を判断しな」
話終わるたび、そうアメリアは目を細めた。
初めて感じる人々との楽しい時間。
リーベルには自由な彼らが到底悪人には思えなかったし、いつの間にか彼らがずっとこの森に住み着いてくれれば良いのにとさえ思っていた。
そして犯罪者の彼らを匿うこと自体、背後にそびえる宮殿の住人達へのささやかな抵抗活動にもなっていたのだった。
そんなある日、
「そうだ…ここで会ったのも何かの縁だ」
アメリアが手を差し出した。その掌には不思議な光の屈折が起きている水晶のペンダントが1つ。光り方以外なんの変哲もなさそうな石だったが、それを出した途端、他の2人の顔色に僅かだが緊張が走った。アメリアが目配せすると、2人は真面目な面持ちで小さく頷く。男は視線を下に落とし、南方の女が寂しそうに微笑んだ。
「私たち、最後にこれを誰かに託すために逃げてきたのよ」
「国の奴らになんてくれてやるか…あいつらは信用ならない」
「そう。これには正しい使い方をすれば無限の力が眠ってる」
貴婦人はその真剣な眼差しでリーベルに向き直った。
「だからあんたに貰ってほしいんだ。…あんたなら、いつかこの力に辿り着けるはずさ」
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