カニの食べ方

 その男はカニが好きだった。

 そんな男のところに、実家からタラバガニが送られてきた。

 一匹ではあるが立派な大きさで、一人で食べるなら食べ応えがある量だった。

 

「やった。どうやって食べようかな」

 

 カニは色々な食べ方がある。

 焼きガニ、茹でガニ、カニ鍋といったカニをメインとした料理はもちろん、パスタやサラダの具材としてカニを使っても旨い。

 しかし、男の食べ方は決まっていた。

 

「やっぱり、シンプルに焼きガニか茹でガニかな」

 

 素材の味を活かした料理方法で、カニ本来の味を味わうのが好きだった。

 だから、男は焼くか茹でるかで迷う。

 

「足を五本ずつ焼きガニと茹でガニにしてもいいんだけど、本体から足を取ると美味しさが逃げちゃうんだよなあ」

 

 カニは男の好物だ。

 そのカニの味を落とすなど、男にとってはあり得ないことだった。

 

「香ばしい焼きガニか、しっとりジューシーな茹でガニか、どちらにするか」

 

 香りを優先するなら間違いなく焼きガニだ。

 けれど、滲み出る汁と一緒に食べる茹でガニも捨てがたい。

 それに茹でたときの、ふわりと漂う香りは、焼いたときの香ばしさに匹敵する。

 それは自分で茹でたときしか体験できない。

 

「よし。茹でガニにしよう」

 

 男の心は決まった。

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