洋菓子屋のマロングラッセ

 あるところに洋菓子屋があった。

 どの商品も美味しいと評判だったが、マロングラッセが一番人気だった。

 値段は一つ120円。

 丸々とした栗がお菓子になっていて、見た目にも美しい。

 ただし、栗を崩すことなく加工するのは難しく、一定数の失敗品が出てしまう。

 だから、値段が少し高いのは仕方のないことだった。

 しかし、その少しに躊躇して買わない人がいる。

 そういう人は、失敗品のマロングラッセ、いわゆる訳あり品を買っていく。

 訳あり品でも味は変わらないが、見た目や歯ごたえが違う。

 食材なら料理すれば見た目や歯ごたえが変わるので問題ないが、それ自体を食べるお菓子にとって、その違いは大きい。

 洋菓子店の店主は、日頃からお客さんに本物のマロングラッセを食べてもらいたいと考えていた。

 そのため、店主は思い切った手段に出た。

 

「お花見セールを開いて、マロングラッセを2割引きで売ろう」

 

 儲けがほとんど出ない価格設定だったが、店主の目的は食べてもらうことなので、儲けは度外視だった。

 そのかいあって、割引されて100円になったマロングラッセは飛ぶように売れた。

 

「おいしい!」

 

 セール中の儲けはほとんど出なかったが、お客さんに食べてもらえて店主は満足だった。

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