転校生

 あるところに小学生の女の子がいた。

 親の都合で転校することになったが、気の弱い女の子には心配事があった。

 それは、転校先でちゃんと自己紹介ができるかということだった。

 

 上手く喋れるだろうか。

 途中で噛まないだろうか。

 声が上ずらないだろうか。

 

 もし失敗したら、笑われてしまうかも知れない。

 それだけでなく、イジメられてしまうかも知れない。

 不安が募る中、転校初日がやってきた。

 

「アオキ アイコ、10才です。誕生日は8月20日、おとめ座です。好きな食べ物はホットケーキ、嫌いな食べ物はトマトです――」

 

 何度も練習したかいがあり、自己紹介は順調に進んだ。

 残るは最後の挨拶だけなので、間違えることはない。

 そう思って、気を抜いたのがよくなかった。

 

「――みなさん、これからよろしくお願いしましゅ」

 

 最後の最後で噛んでしまった。

 静まり返る教室。

 転校先の子供達は優しく、女の子が噛んだことを馬鹿にしたりはしなかった。

 ただ、反応に困り、固まってしまった。

 

 失敗を笑われたなら、恥ずかしい想いをするだけで済む。

 しかし、失敗したのに真顔で注目されたら、どう思われたのか全く分からない。

 

 

「…………ぐすっ」

 

 未知の恐怖に、女の子は泣き出してしまった。

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