傾いている塔

 あるところにアオキという男がいた。

 彼はいつもあることを疑問に思っていた。

 

「両手に異なる物体を持って同時に離すと、同時に地面に到達しているように見える」

 

 それは正しいかも知れない。

 でも、間違っているかも知れない。

 地面に到達するタイミングに差はあるが、少しだから分からないだけかも知れない。

 そこで彼は確かめてみることにした。

 

「できるだけ高いところから、物体を同時に落としてみよう」

 

 もし、落下速度に差があるなら、高いところから落とした方が地面に到達するタイミングの差は大きくなるはずだ。

 それでも同時に地面に到達したなら、彼の考えは正しいということになる。

 彼はそう考えたのだ。

 

「あそこなら、試すことができるだろう」

 

 彼はその実験をするのに適した場所に心当たりがあった。

 それは地盤沈下で傾いた塔だった。

 彼はさっそく塔に上り、一番上から重さや形の異なる物体をいくつも落とした。

 すると、全ての物体が同時に地面に到達した。

 

「やはり、私の考えは正しかった」

 

 彼は実験の結果に大いに満足した。

 そして実験の成功を記念して、塔に名前をつけることにした。

 

「今日からこの塔は、ピザの斜塔と呼ぶことにしよう」

 

 それ以来、そこは大人気店となった。

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