収集家

 ある店で、男がショーケースに張り付いていた。

 

「税込10000円か」

 

 男が見ているのは、フィギュアだった。

 そのフィギュアは男が集めているシリーズで、男は金に糸目を付けずに集めていた。

 しかし、その日は別の店でフィギュアを買ったばかりで、財布の中身が心許なかった。

 

「一枚、二枚、三枚……」

 

 財布の中には4枚の紙幣と4枚の硬貨があった。

 

「……400円足りない」

 

 しかし、フィギュアを買うには微妙に足りなかった。

 男は不足金額を手に入れる方法を考えた。

 クレジットカードは持っていない。

 キャッシュカードは家に置いてある。

 

「家に帰って取ってくるしかないか。でも、その間に売れてしまったら……」

 

 家に取りに帰れば解決するのだが、問題は時間だった。

 フィギュアは人気で、目を離した隙に売れてしまうかも知れない。

 そう考えると、時間をかけて家に帰るのは躊躇われた。

 

「値切るか」

 

 男は店長と値下げ交渉をすることにした。

 最初は渋っていた店長だったが、男が語るフィギュア愛に根負けし、1割引きで売ることにした。

 

「大切にしてくれよ」

「もちろんだ」

 

 念願のフィギュアを手に入れ、男は店を後にする。

 財布には4枚の硬貨しか残らなかったが、男に後悔は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る