海釣り

 ある男が海にやってきた。

 目的はイカ釣りだった。

 普段は堤防で釣るのだが、今日は奮発して船を出してもらった。

 

「よーし、釣るぞ!」

 

 気合を入れながら釣り竿を振るい、針を海に落とす。

 そこからは一転、静かにする。

 騒ぐと獲物が逃げてしまうからだ。

 

 …………ピクッ

 

 反応はすぐに来た。

 しかし、焦らない。

 慌てて上げると、逃げてしまうからだ。

 しっかり食いついたところを狙う。

 

「よしっ」

 

 タイミングを合わせて引き上げると、針に獲物がかかっていた。

 しかし、かかっていたのは男が狙うイカではなかった。

 

「ええ? なんで、タコ?」

 

 かかっていたのは鮮やかな赤色をしたタコだった。

 

「同じ軟体動物だけど、本命はイカなんだよなあ」

 

 男にとってイカは本命、タコは外道だ。

 男はタコを食べるのは好きだが、料理をするのは嫌いだった。

 

「タコは下処理が面倒なんだよなあ」

 

 愚痴を言いつつもリリースはしない。

 奮発して船を出してもらっているので、できるだけ釣果を上げたいと考えていた。

 気を取り直して、釣りを続ける。

 

「よし――って、またタコか」

 

 男は時間ギリギリまで粘った。

 しかし、釣れるのはタコばかりだった。

 

「大漁なのに、損した気分だ」

 

 大量のタコを前に、肩を落とした。

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