飼育委員

 ある子供が小学校で授業を受けていた。

 

「二頭を追う者は一頭をも得ず、という諺がありますが……」

 

 子供は飼育委員だった。

 飼育委員は交代で動物の世話をしており、その日は子供の当番だった。

 

「昔々、因幡の国に一羽の白兎がいました。白兎は海を渡ろうと……」

 

 子供は動物が好きだった。

 だから、放課後になるのが待ち遠しかった。

 

「亀が三匹、兎が五匹います。合わせて、何匹いるでしょうか?」

 

 授業が終わり、放課後になった。

 子供はうきうきしながら飼育小屋へ行く。

 すると、到着早々に嬉しいことがあった。

 

「やった! ニワトリが卵を産んでる!」

 

 飼育小屋には雌の鶏がいて、たまに卵を産む。

 その卵は、飼育委員がもらってよいことになっていた。

 だから、当番の日に卵があったら、それはご褒美だった。

 

「割れないようにしなきゃ」

 

 卵を持ったまま動物の世話をすると、割ってしまう可能性がある。

 飼育小屋を出て卵をランドセルにしまい、動物の世話を再開する。

 すると、あることに気付いた。

 

「あれ? 兎がいない……」


 子供は小屋を出るときに扉を締めなかった。

 けれど、最初からいなかった可能性もある。

 卵に浮かれていた子供は、はっきり見ていなかった。

 子供の顔から血の気が引いた。

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