転生したら村を任されたので、発展させていきます。外伝3

白藤 秀

Uターン

 俺が前世と呼ばれる記憶がある事を明確に意識したのは、リオンとして生きて五歳の頃、俺は流行り病にかかり生死の境をさまよった。

 その結果として、俺は日本と呼ばれる法治国家で農業を生業として生きていたことを思い出す。趣味と呼べるほどの物はないが、好きな事はあった。歴史書を読んだり、アニメや漫画を鑑賞したり、うまい料理を作ったり食べること。

 まあ、不幸にも熊に襲われその生涯を閉じ、第二の人生をリオンとして歩み始めた感じだ。


 俺は魔獣武闘会で優勝し、盗賊からの臨時収入を携えて村への道をのんびりと荷馬車の荷台、その荷物の上に寝転がりながら流れて行く空を鑑賞していた。

「おっ、日暈にちうんだ。これを見る事ができれば、良いことが起きるとか、悪いことが起きるとか、何かの前触れとか? 昔ばあ様が言っていたけど、どれだったかな?」

 巻雲がうすく広がっていると、まれに太陽の周りに輪っかが見えることがあるらしいが、初めて見たな。春や秋に見る事が多いが、秋のこの季節に見れたのはとても珍しい事なのかな?

 しばらく空を見つめていると、荷馬車が止まった。

 何事かと起きて見ると、道の真ん中に人が倒れている。

「・・・何かの前触れだったみたいだな」

 俺はすぐさま荷馬車から飛び降り、行き倒れている人の元へと歩み寄った。

 うつ伏せだったので、仰向けに転がし直す。

 倒れていたのは男性だった。もし酔っぱらいであればそのまま転がして先に進むのだが、とても苦しそうな顔をしていた。

 ひどく揺すっていると男性は意識を取り戻し、俺のきているローブを掴み。

「て、帝都へ行かないと・・・妹の・・・薬が・・・」

 そう俺に伝えてきた。

 なるほど、妹さんが病気になっていて、帝都にその薬はあるようだ。

「なあ、にいちゃん。俺が連れて言ってやる。だからその代わり、一晩の宿を貸してはくれないか?」

 男性は何度も首を縦に振った。ひどく衰弱しているようだ、どこからきたのだろう?

 俺はまだ体力が回復していない男性を荷馬車に積み込み、荷馬車をUターン。

 来た道を大急ぎで戻り始めた。


 数時間前に通過した帝都の城門をくぐり、再び王都へと戻ってきた。

 大品評大会のおかげか帝都銃が活気にあふれていた。

「おい! にいちゃん。いつまで寝てんだよ。起きろ!!」

 男性の顔に持っていた水をぶちまけた。

「うおろろ!! お、溺れるかと思った! っていきなり何すんだ!!」

「やっと起きたな。それで、にいちゃんの妹の薬はどこで買うつもりだ?」

「え、ああ、そうか、そうだった!」

 男性は、ばね仕掛けの玩具のように状態を起こすとすぐさま走り出そうとしたが、その襟首を掴んで止める。

「アンタは倒れて衰弱してんだから、俺が送っていく。案内しろ」

「いいのかい?」

「これも何かの縁だ。最後まで付き合うさ」

 男性の案内で妹さんの薬を調合している薬師の元へと急いだ。

 帝都の外れにある古びた屋敷の前まで来ると、男性は荷馬車から飛び降り、屋敷に一目散に駆け出し玄関の戸を開け放ち中へと入っていた。

「ファルマさん! また妹が倒れた!!」

「ダン! お前、何回言わせるんだい! 勝手にドアを開けて入ってくるんじゃないよ!!」

 少しかすれた老婆のような声が、開け放たれたドアの向こうから聞こえて来る。

 声音からわかるように、いかにも老婆は不機嫌そうだ。

「そ、そんなことより、薬を調合してくれ! 酷い熱なんだ、四日も熱が引かないなんて明らかにおかしい!」

「四日だって!? あの子の体力でそんなに長く持つわけない。すぐに荷物をまとめるから外で待っていな!!」

 男性はその言葉が終わると同時くらいに屋敷から叩き出された。

「おい、にいちゃん。これからどうするんだい?」

「今度は薬師様を連れて村に戻る」

「どうやって?」

「おれがおぶっって駆けていくさ!」

「後先考えなしか! 全く、乗りかかった船だ。最後まで面倒見てやるよ。さっさと後ろに乗りな」

 俺は出てきた薬師を荷馬車へ積み込むと大急ぎでまた来た道を引き返した。


「リンダ! 薬師様を連れて来た! もう大丈夫だぞ」

 薬師と男性を積み込んだ弾丸荷馬車は帝都出発から三十分で男性が住んでいる村へとたどり着いていた。

 薬師のババアは揺れと振動により、来る途中に気を失っており、先ほど叩き起こしたところだ。

「まったく酷い目に遭ったわい」

 ブツブツと恨み言を言いながら、男性の家の中へと入っていた。

「少しお前は外に出てな。今から診察を行うからな」

「いや、それでも−−」

「お前は嫁入り前の妹の肌を見たいのかい? とんでもない兄貴だね」

「な! お、おれは心配で!」

「いいからで出な!」

 バン! っという威勢のいい音とともに男性がまた叩き出されていた。


 暫くして、診察を終えた薬師のババアが神妙な顔つきで家から出て来る。

 とても言いずらそうに、男性に話を切り出した。

「いいかい。心して聞きな。リンダはそう長くない」

「え?!」

 狼狽える男性に薬師のババアは畳み掛けるように付け加える。

「おそらく今日が山場だ。付いていておあげ」

「なんで、なんでですか!!」

 男性は力なくその場に崩れ折れ、地面を叩いた。

「彼女の病には龍種の涙と爪が必要になる。それだけ集めるだけでもひと財産だ」

 薬師のババアは男性と目を合わせない為か現実から目をそらすためか目をつむりながらそう口にする。

「だから・・・リンダは死なないといけないのですか? 生きてはならないのですか? なんでリンダでないとけないのですか? なんでおれじゃないんですか!?」

 悲痛な叫びと地面を叩く音がする。

「あんちゃん。妹を助けたか?」

「当たり前だろ! たった一人の兄弟だぞ!!」

「そうか。なら、あんたにこれを譲ろう」

 俺は荷馬車から昨日の夜にクソドラゴンからせしめたものを手渡した。

「これは?」

「レッドドラゴンの龍の涙にその爪だ」

「こんな高価な物もらえない! 頂いたとしてもおれにはとてもじゃないが−−」

「気にすんな。俺が大変な時に助けてくれたらいいからさ」

 俺はバラッドベアのローブを翻し颯爽とブルが引く荷馬車に飛び乗り走り出した。

 いやー。いい事をすると気持ちがいいな。

 土産は少し減ってしまったが、涙も爪もまだあるし、それで人の命が助かるのならいいって事よ。



 おれは不思議な少女に出会った。毛が白い牛の荷馬車に乗り、バラッドベアのローブを纏うそんな少女はおれの妹の為に龍の涙と爪を譲ってくれた。

 本来であればそんな義理などないはずなのに。

「レッドドラゴンの涙にその爪だって?! 龍種であればなんでもいいわけじゃないが、力の象徴たるレッドドラゴンとはね・・・」

「レッドドラゴンだとダメなのですか?」

「いや、もっとも入手が困難で、困難ゆえにそれだけで一生遊んで暮らせるほどの財宝だよ」

「え!」

「あの娘っ子はもしかしたら神様の使いかもしれないね」

 その情報に放心状態のおれをよそにファルマさんはその涙と爪を使い薬を作り、リンダに飲ませていた。

 リンダの熱はたちどころに引き、次の日には元気に走り回ることができるほどまでに回復していた。

「名前は知らないけど。おれは必ずあの人にこの恩を返すぞ!」

 おれはそう、心に誓った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら村を任されたので、発展させていきます。外伝3 白藤 秀 @koeninaranai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ