第33話「保健室の目覚め」

 ゆっくりとまぶたを持ちあげる。


「あ、起きた。大丈夫?」


 エレナが心配そうに俺を覗きこんでいた。


「ここは……?」


 あたりを見回す。

 白い天井に白い壁、そして白いカーテンでベッドの周りを仕切られたそこは、


「保健室よ」


 ですよね。


 ゆっくりと上体を起こす。

 うん、痛いところはないな。


「起きて大丈夫なの?」


「多分……いてっ」


 後頭部を触るとでかいたんこぶができていた。


「気をつけてよね。今日は大事な日なんだから」


「誰のせいだと思ってんだよ……」


 おまえが鬼と化したせいだぞ。


「元はといえばあんたが悪いんでしょ!」


「まあな!」


「開き直らない! で、はいこれ着替え」


 エレナがきれいに畳まれた俺の制服を差し出す。俺はバスタオルを巻いただけの格好でベッドに座っていた。


「おお、サンキュー。つーか俺、もしかしてこの格好でここまできたのかよ?」


「しかたないでしょ、焦ってたんだもん。別にいいでしょ。どうせ休日の学校なら警備人形ガーディアンしかいないんだし。運んであげただけても感謝しなさい」


「へいへい」


 バスタオルをぺろんととって手早くブラをつける。二週間以上も女の子やってりゃブラのつけはずしにも慣れたもんだぜ! ブラってこんな仕組みだったんだな!


 チェックのリボンとスカートがかわいい制服を着て保健室を出る。


 休日の校舎はやはり人が少ない。たまーに貸し教室で勉強熱心なやつがなんかやってるが、あとは鎧の警備人形ガーディアンが見回っているくらいだ。


 警備人形こいつらは書いて字のごとく学校の警備の任についている鎧の人形だ。内蔵されている人工魔力核アーツ・コアが尽きない限り動き回ることができるため、並みの人間が相手にするのはなかなか厳しい。最終下校時刻をすぎた放課後や休日に生徒が校内に立ち入っても襲ってくるので注意が必要だ。今俺やエレナが首からさげている入校許可証があれば大丈夫なんだけどね。


「あ、イオリ先生だ」


 エレナが開いた窓の外を見て言った。


 一階のこの廊下からは校舎の裏口が見える。イオリ先生はスーツ姿のいかついおっちゃん四人に混ざって裏口のほうを歩いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る