第32話「いざ女湯へ!」

「うほぅ……!」


 そこはまさしく楽園。


 湯気にけむる女子高生の裸、裸、裸!


 歩くたびにぽよんと揺れるおっぱい。ぷりんぷりんのお尻。


 ここが夢にまで見た肌色パラダイス……!


「生きててよかった……!」


 神よ! この世に生を授けてくださったことを感謝します! そしてエレナ! 女の身体にしてくれてありがとおおおお!!


 できる限り見回しながら広い浴室をゆっくりと歩く。

 げへへ! 貧乳、凡乳、巨乳、なんでもござれだぜ! この光景を目に焼きつけておかなければ!


 湯船に浸かった女子たちが「あ〜○○のおっぱいおっきい! 触っちゃお〜!」みたいなノリでおっぱいを触りあっている。いいな〜俺も混ざりて〜! クラスの女子とかいないかな?


「ん?」


 なんだか肌色女子高生たちの俺を見る目が怪しい。あれ? 俺今ちゃんと女の子だよね?


 鏡でできた柱に金髪美少女の全裸が映りこむ。

 彼女の柔らかそうな巨乳には、鼻から垂れた赤い液体がツーッと流れていた。


「鼻血……」


 ていうか俺じゃん。


 鼻をつまんでみる。が、鼻血は止まらない。あれ、鼻血ってどうやって止めるんだっけ? たしか上向いちゃダメなんだよね?


 そのときすっと背後で扉が開く音がした。

 ひやり。冷たい空気が背中を撫でる。


「マ〜カ〜ゼ〜……!」


 地を這うような低い声。振り返ると、


「げっ! エレナ……!」


 鬼のような形相のエレナが制服のまま浴室に入ってきていた。


「な、なんでここに……?」


「部屋に戻ったらあんたがいないから、まさかと思ってきてみたのよ……! あんた、こんなところで、一体、なにしてるわけ……?」


 ヒュンッ! とものすごい速さでなにかが飛んできた。


「ひっ!?」


 ガン! と俺の左頬すれすれを通って、エレナの拳が鏡の柱にぶちあたった。さーっと血の気が引いていく。


「お、落ち着けエレナ……」


 エレナはゆっくりと手を引き、もう一度握り拳を構える。


「大浴場にはいくなって、あれほど言ったのにぃぃ……!」


「す、すぐに出るから……」


「黙らっしゃい!!」


 ドゴン! 今度は右頬すれすれを拳が通過していった。


 エレナのうしろにゆらぁ……と黒いオーラのようなものが立ちあがる。なにあれ超怖い! つーかすでに次のパンチ構えてるし!


「エ、エレナ、ちょっと待っ……!」


「待たないっ!!」


 迫りくる鉄拳。今度はガチで顔を狙ってきやがった。腰をひねって寸でのところでかわした拳が柱にヒットする。

 今柱バキッて言わなかった?


「あっ、こら待て!」


 俺はエレナに背を向けて駆け出した。近くにいた女子が「きゃっ!」とM字開脚にすっ転ぶ。す、すごいポーズだ……! でも今は女の子のエッチなポーズをゆっくり見ている暇はない!


「逃げるなっ!」


「逃げるわ!」


 鏡見てみろよ! 今おまえ般若みたいな顔してるぞ!


 エレナの手が俺の肩を触る。振り切ろうと身体をひねった瞬間、


「あっ」


 つるんっと足が滑った。風呂場って滑りやすいよねー。


「マカゼ!?」


 ガッツン。後頭部にヤバい音と衝撃。


 浴室の天井と驚いたようなエレナの顔を最後に、視界が暗転する。

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