第29話「トバリとの約束」
イケメンの口から出た時代錯誤な言葉に、思わず素で返してしまった。
「決闘? ……って、もしかしてあの決闘?」
エレナがぱちぱちと瞬く。
「そうだよ」
トバリはにこやかにうなずいた。
決闘とはひと昔前にマジスタ校の中高生のあいだで流行っていた一種の喧嘩だ。
ルールは簡単。魔法を使って一対一で戦い、勝ったほうが負けたほうの校章ブローチをもらう。
マジスタ校の校章には持ち主の名前かイニシャルが刻まれているのが普通だから、集めれば集めるほど強さの証になったというというわけだ。
決闘は俺が小学校低学年のころから徐々に校則で規制されはじめ、今ではほとんどの学校で禁止されているのだとか。
「……なんで?」
「昨日、スチュアートさんのお父上から電話があったんだ。いきなり大企業の社長から連絡があったんで、驚いたよ」
「……パパがブライトくんになんの用?」
エレナが訝しげに眉根を寄せる。トバリは俺を見た。
「スチュアートさんのお父上、君のことをご存知だったよ」
ギク、と肩が強張る。
「今年、ヒナギクにとても魔法の得意な女の子が入学したそうだねとおっしゃっていた」
……なんだ。女の子ね女の子。
俺がエレナの幼馴染のマカゼ・ホワイトだって気づいたわけじゃないんだよな?
「そしてこう言ったんだ。彼女と決闘して、君が勝ったら君をエレナの許嫁にしてあげよう、と」
「……ええっ!?」
叫んだのはエレナだった。俺はイケメンに言う。
「トバリくん、エレナと結婚したいの?」
「うん。スチュアートさん、素敵な人だし」
「ちょ、ちょっと……!」
エレナが顔を真っ赤にする。
この反応、エレナのやつまんざらでもないんじゃねぇの?
「だからホワイトさん、僕と決闘してくれないか」
もちろん、とトバリは続ける。
「今のままじゃホワイトさんにメリットがないことはわかってる。だから、好きな条件をつけ加えてくれたらいい」
ほう。条件か。
「なんでもいいの?」
「ま、マカゼ?」
エレナが困惑したように眉根を寄せる。
ああ、とトバリは余裕の顔でうなずく。
ふむ。腕を組んで考える。なんでもいいの? なんて聞いておいて、これといった案があるわけではないのだ。
「……じゃあ、私が勝ったらトバリくん、なんでも言うこと聞いてくれる?」
「それでホワイトさんが決闘を受けてくれるのなら」
トバリはためらいもなくうなずいた。
「なら決まりだね」
「ちょっとマカゼ……」
「ありがとう」
イケ面が笑う。
「日時は今週末の日星日、二十一時でどうかな?」
「いいよ。場所は?」
「実はもう魔法実験室5を押さえてあるんだ。あそこなら多少暴れても大丈夫だし、防音もしっかりしてる。今さら決闘なんかするとは誰も思わないだろうから、校内のほうがかえって見つからないんじゃないかと思ってね」
「なるほどね。校内で堂々と校則違反か。やるねぇ優等生」
トバリはにこりと笑って、
「それじゃあホワイトさん。日星日、楽しみにしてるよ」
一足先に教室へと戻っていった。
「ちょ、ちょっとマカゼ! なんで引き受けるのよ!?」
エレナが赤い顔でわめく。
「あんなの無視すればいいのよ! パパが勝手に言ってるだけなんだから! それに決闘なんて危ないし……!」
「危ないことなんかねーよ。さっさと負けて終わらせるさ」
「……え?」
エレナが足を止める。
「……なんで? なんであんたが負けるのよ?」
水色の瞳は呆然と俺を見つめていた。
うーん、どう言ったらあんまり傷つけないですむかなー。
「……そのほうがおまえもいろいろと整理がついていいだろ?」
「……なによそれ……」
水色の眉がつりあがる。階段をのぼってきた女子生徒が教室に駆けこんでいった。
「早く戻らないと遅刻だよ」
予鈴が鳴る。
エレナはうつむいて俺を追い抜かし、さっさとひとりで教室に入っていった。
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