第27話「『メルヘンズ』の行方」
「や、やっと見つけたぜ、階段……」
ぜえぜえと息を切らして階段をのぼる。
『メルヘンズ』も手に入れたし、こんなところ早く出よう。
上の階に出てあたりを見回す。
ジャンクの気配はない。
エレナがくしゃくしゃになった地図を開く。
エレベーターが見える方向から、現在地は簡単に割り出せた。俺たちが入ってきた出入り口はここから結構近い。
歩きながら古い本を開く。
「本なんか見てて、急にジャンクが出てきたらどうすんのよ」
とか言いながらエレナも興味津々な様子で本を覗きこむ。
汚れたり破れたりしている古いページには見慣れない
「縦に読むのか……?」
「そうみたいね。横並びに慣れてると変な感じね。文字の種類も、あたしたちの言語よりずっと多いみたい」
エレナの指が、画数の多いごちゃごちゃした形の字や比較的シンプルな形の字が組み合わさった文字列をなぞる。
「言葉が違うって不思議ね。
パラパラとページをめくる。
途中でいくつか挿絵のページもあった。いばらのなかで眠る女性の絵、七人の小人と少女の絵、そしてライオンのような熊のような獣と踊る女性の絵が出てきたところで本を閉じる。
「さっぱりわからん。こりゃやっぱり読める人を探さなきゃダメだな」
「そうね。でもそれはあとで考えましょ。今は地上に出るほうが先だわ」
周囲を警戒しながら廃墟を歩く。
やっと洞窟へと続く通路が見えてきた。やったーもうすぐ地上だーと思ったそのとき、
「いたぁーっ!!」
うしろから叫び声がした。
この声は……。
嫌な予感とともに振り返と、
「さっきはよくもやってくれたなぁクソビッチども!!」
二十メルテルくらい離れた道の端に、さっきの
俺とエレナは顔を見合わせる。
「マズい……!」
「に、逃げるわよっ!」
ダッ! と駆け出した。
「待てぇコラァ!!」
「次こそ逃がさねぇぞぉ!」
洞窟に続く人工通路に入ったところで振り返ると、
「ひー!」
兄弟はじわじわと俺たちとの距離を縮めていた。
こっちはスキルウェアを着てるってのに、あいつらなんて体力してんだよ!
「いいから走って!」
半泣きのエレナが言ってゴツゴツした階段を駆けのぼる。
「追いつかれるのは時間の問題だぞぉ?」
「そろそろ観念したらどうだ!」
声は思ったよりも近くから聞こえた。
振り返るとその距離、五メルテルくらい。
弟が右籠手を前に突き出す。その手首のあたりから、
「っ……!?」
ピュンッとなにかが飛んできた。
金髪が数本舞う。
あいつ飛び道具なんて持ってやがったのか!
「おとなしく捕まれよぉ!」
ピュンッと小さな矢がもう一発。寸でのところでかわした俺はバランスを崩し、
「あっ……」
ぱっ、と手から本が離れる。
「マカゼ!」
エレナが俺の腕をつかんだ。なんとか態勢を立て直し、もつれた足を懸命に動かす。
間髪入れずに次の一撃が飛んでくる。本を拾う暇はない。
「使いたくなかったけど、しかたないわね……!」
エレナはどこからかガラスの小瓶を取り出し、ポイッとうしろに投擲した。
「マカゼ走って!!」
スピードアップしたエレナにつられて最後の力を振り絞る。
ボォンッ! とうしろで爆発音がした。
「うおわっ!?」
爆風に背中をあおられる。洞窟が振動し、俺たちと追手のあいだの岩壁が崩れる。
「おわっ!?」
「くそっ……!」
兄弟の声が岩が落ちる音に掻き消されていく。
ああ、『メルヘンズ』が……!
「マカゼ走って!! あたしたちも危ないのよ!!」
速度を緩めた俺の腕をエレナが引っ張る。俺たちは階段をのぼりきり、低い天井の下を駆け抜け、洞窟から転がり出た。
不穏に地鳴りする穴を振り返る。
「た、助かった……」
「おま……あれ、爆弾? なんでそんなの……」
「実験室の薬品でちょちょっと作ったの。……あれ? マカゼ、本は?」
「……落とした……」
「……え……」
ガランゴロンと瓦礫の後でうなる洞窟を呆然を見つめて、
「……あの下?」
「うん」
「そ、そんなぁ……」
エレナはへなへなと座りこんだ。
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