第23話「スキルスーツの力」

「こっちよ!」


 エレナを追って曲がった先は、


「なっ……!?」


 いきどまりだった。


「グルルルル……」


 ジャンクたちはジリジリと距離を詰めてくる。


「くっ……!」


 背中が壁についた。

 もうこれ以上は下がれない。


「ご、ごめんマカゼ……あたしがこっちって言ったばっかりに……!」


「その話はあとだ! 今はこの状況をどうにかしなきゃ!」


「そ、そうだよね。あたし……」


 怯えていたエレナの瞳に、鋭い光がともった。


「戦うわ」


「え?」


 エレナは一歩前に出て、意志の強そうな瞳でジャンクたちを睨めつけた。


「え、ちょ、無理しなくても……」


 いや、たしかに無理しなきゃどうにもなんない状況だけど。


「無理じゃないわ。こういうときのためのスキルスーツだもん!」


 エレナが言ったのと同時に一体の首長狼が飛びかかってきた。

 エレナはスッと身を屈める。向かってくる化け物のほうにぐっと踏みこんで、


「てぇい!」


 その拳を長い首に叩きつけた。


「うぉおっ!?」


「ギャオンッ!」


 ジャンクの巨体が斜めに吹っ飛んで、俺の隣の壁にぶち当たった。


「……意外と大したことないわねっ!」


 エレナはふんと鼻で笑って、六匹のジャンクたちの前に仁王立ちした。

 口元には余裕の笑み。


 おお……この状況で笑うとかエレナすげー。


 仲間がやられて頭に血がのぼったのか、ジャンクが二匹突進してくる。


 軽やかなステップで一匹目をかわし、エレナはその黒い横っ腹に拳撃を叩きこむ。そしてその勢いのまま、


「うらあっ!」


 二匹目に回し蹴りを見舞う。


 細い手足から繰り出される一撃は意外なほどに重い。きれいに左右に吹っ飛んだ首長狼はギャオッと痛そうに鳴いて地面に転がった。


 つ、つえー……。スキルウェアのおかげもあるんだろうが、それにしても強い。かっこいい。惚れそう。


 そういえばエレナは昔からいろいろと護身術を習っていたのだった。だからパワー重視の装備なのか。


「くるならきなさいよ! 返り討ちにしてやるから!」


 強気に啖呵を切るエレナのなんと頼もしいこと。その背中に守られてる俺マジヒロイン。


 ジャンクのやつらもビビって動けないようだ。

 エレナ様最強!


「ガルッ……!」


 視界の隅で最初にやられたジャンクが起きあがる。そいつに背中を向けているエレナは気づかない。


「エレナッ!」


「えっ?」


 エレナが振り向くのとジャンクが走り出すのが同時だった。


 エレナは硬直している。


「ああクソッ……!」


 俺は目を閉じ、突風が巻き起こる様をイメージした。


 間に合え……!


「"神風スカートめくり”!!」


 瞬間、ゴォッと風が吹く。


 刃となった風がジャンクを襲う。


 黒い胴体から血が吹き出した。よろけたジャンクはそのまま横向きに倒れる。


 それが合図だったかのように、残ったやつらが一斉に走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る