第22話「ジャンク」

 ま、茶番はさておき。


「エレナ、怪我してないか?」


「……大丈夫。マカゼこそ頭打ったりしてない?」


「おまえの肋骨にぶつけてしまったかもしれない……ああ、おまえの胸がもう少しふくよかだったらなぁ……」


「殴るよ?」


「ごめんなさい。俺も特に怪我はなさそうです」


「よかった。頭でも打って、これ以上バカになったら大変だもんね」


 さらりとひどいことを言って立ちあがり、エレナは握りしめてくしゃくしゃになった地図を開く。


「まださっきのやつがいるかもしれないし、上には戻らないほうがいいわよね。あたしたち、今どのへんにいるんだろ……」


 俺たちがいるのは階段の踊り場だった。地図には下の階へ続く階段は複数描かれており、俺たちがそのうちのどれにいるのかはわからない。


「とりあえず下りてみるか」


 長い階段を下る。地下二階は上の階よりも天井が低く、中心のエレベーターのようなものもなかった。


 エレナが地図とあたりの景色を見比べる。


「うーん……パッと見ただけじゃ、どこかよくわかんないわね……」


「つーかその地図どこで手に入れたんだよ? アウトエリアの地図なんて普通売ってないだろ?」


 誰も買わないからな。


「ネットで落とした」


「それ信用できるのかよ……」


「へ、平気よ多分! ちゃんとお金払ってダウンロードしたやつだし! 墓荒らしグレイヴァー向けの怪しいページだったけど……」


「不安だ……」


無料タダよりは安心でしょ!?」


「まあな……」


 ま、今さらこの地図を疑ってもしかたない。今はこいつを信用するしかないのだ。現在地わかんないけど。


「一階なら中央のエレベーター? を目印に地図を見ればよかったけど、ここには遠くから見て目印になるものもないからな。頃合いを見計らって、やっぱり一度上に戻ったほうがいいかもしれない。帰れなくなったらまずいし」


「そうね。上での位置がわかれば、二階での位置も……」


 エレナがはっと口をつぐんだ。俺もすばやくあたりを見回す。

 かすかに獣のうなり声がした。


「ま、まさかここにも……!?」


 声がするのは左の道のほうだ。俺とエレナは顔を見合わせて、右の道に走りこむ。


 低い鳴き声と足音がついてきた。


「ひっ……!? なんかいっぱいいるっ!!」


 エレナが悲痛な声をあげる。


「いっぱい!?」


 振り返った俺、絶句。


 俺たちは七匹の首長狼に追いかけられていた。ちゃんと数える余裕ないけど、うん、多分七匹。


 涙目の美少女二人、廃墟の地下街を再びの全力疾走。

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