第21話「捜索」

 それから小一時間ほどしたころ。


「なあエレナ。おまえ、あれ読めるか?」


 俺は隣の建物を指差す。看板かなにかだったのだろうか、出入り口の上に斜めにぶら下がった板には旧人類ストリアンの文字らしきものが並んでいた。


「読めないけど……」


「だよな。俺もだ」


「それがどうしたの? ……あ」


 エレナも気がついたようだ。


「本を手に入れても、文字が読めないと意味ないじゃん!」


 そうなのだ。


 旧人類ストリアンの言語と俺たちが使う言語はまったくの別物だ。


 当然、旧人類ストリアンが書いた書物など読めるわけがない。


「おまえ、知り合いに考古学者とかいないの?」


「いない……こともないけど、あたしのじゃなくてパパの知り合いだもん。呪いの本の読解なんて頼んだら、絶対パパに怪しまれる……」


「だよなぁ。んじゃどうするか……」


 うーん、と二人して頭を悩ませる。


 うん、考えてもなにも浮かびませんね。


「ま、思いつかないもんはしかたねぇ。とにかく今は本を……」


 そのとき、不穏な音が聞こえた。


 低くうめく、獣のような声。


 エレナの肩がビクッと跳ねた。


「な、なに……!? まさかジャンク……!?」


 そのまさかだった。


 建物の影から、首の長い狼みたいな化け物が出てきた。


 でかい。馬よりひと回りくらいでかいそいつが、


「グルァァァッ!!」


 飛びかかってきた!


「ひぃぃぃぃっ!!」


「うわぁぁぁぁっ!!」


 俺とエレナ、全力ダッシュ。


 無理! あれと戦うとか絶対無理! 超怖ぇ!


 廃墟の地下街を闇雲に走る。


 ジャンク速ぇ! 怖ぇ! でも逃げ切れてる……! スキルウェアのおかげだありがとうセレブアイテム!!


 チラッと後ろを振り返る。首長狼は思ったよりも近くにいた。ゆっくりとだが確実に距離は縮まっていく。これヤバくね……?


 曲がり角を曲がって、


「きゃっ!?」


 俺はエレナの腕を引いてすぐにまた別の角を曲がる。

 すると、


「え……?」


 グラッと身体が傾いた。


「マカゼッ……!!」


 エレナの腕を掴んだまま、俺の身体が後ろに倒れていく。


 階段だ。ゴロンゴロンと身体と視界が回転する。ゴツンゴツンぶつかって身体のあちこちが痛い。


「うぐっ!」


 エレナの声を最後に回転は止まった。


「ってぇ……」


 身体中が痛いのを堪えて首をひねり、二人で転げ落ちてきたらしい階段を見あげる。

 結構な高さの階段の上を、黒っぽい化け物がサッと横切るのが見えた。


 ほっと息をつく。


「……いったみたいだな」


「ま、マカゼ……!」


 エレナの声が下から聞こえた。……下?


「さっさと手ぇどけなさいよ……!」


「んあ? ……お」


 エレナは俺の下敷きになっていた。


 しかも俺の手は、


「揉むなっ!」


 エレナの胸の上に置かれていた。おお、なんたる偶然。


 俺はエレナのビンタをくらって、慌ててエレナの上から退いた。

 ビンタ+パワー装備の威力はなかなかだぜ……。


「揉んでないよ! 揉めるほどないもん……」


「なんですってぇ……?」


 エレナの顔が鬼のように歪む。おお怖。ジャンクに負けてないよ……。


「ささやかすぎる胸はともかく、そっちはいいのか?」


「誰がささやかすぎ……え?」


 俺の視線を追って、エレナが自分の臀部を見下ろす。


 水色と白のスカートがぺろーんとめくれ、レースのついた薄桃色のパンツがガッツリこんにちはしていた。

 縦長のきれいなヘソまで見えちゃってるぜ。


「きゃあっ!?」


 バッ! と慌てて隠してももう遅い。俺のまぶたには輝かしい美少女のパンツが焼きついているのさ!

 素晴らしきかなラッキースケベ。


「サイッテー……!」


 頬を染めて涙目で睨まれても全然怖くないぞー。照れる美少女はイイなー。

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