第20話「地底の街」
洞窟の天井はエレナの頭よりわずかに高いくらいだった。男の俺だったら完全に頭ゴッチンしてる。女の今はぶつかりはしないのだが、気持ち頭を下げてしまう。
濡れて滑りやすい岩の道を、背を屈めて慣れないハイヒールで歩く。
足にはかなりの負担がかかっているはずなのに不思議と歩きづらくはなかった。むしろ普段より歩きやすい。快適。超快適。タップダンスとかできそうなレベル。タップダンスやったことないけど。
これがスキルスーツの力なのだろう。
セレブアイテムすげー。
道幅は狭く、縦一列になって進むしかなかった。
エレナを前にしたのは失敗だったな。前からなにがくるかわかんないし。
ま、俺が前でも対処できる自信ないけど。
「ジャンクってこんな狭いところ通れんの? エンプティ6にジャンクはいないって可能性はない?」
「入り口はここだけじゃないのよ。たとえやつらがこの洞窟を通れなくても、別の入り口からジャンクが侵入してる可能性は十分にあるわ」
「そうっすか……」
俺の楽観的な考えはすぐに打ち砕かれた。
やだなぁ化け物怖いなぁ。
「おまえ、本物のジャンク見たことある?」
「ないわ。アウトエリアに出たのも今日が初めてだもの。マカゼは?」
「俺も。ジャンク、遭遇したくねぇなぁ……」
「ちょっと、情けない声出さないでよ。こっちまで不安になってくるじゃない。ちゃんと戦ってよ? あんたの魔法が頼りなんだからね!」
「げ、マジかよ」
俺レベルじゃ全然効かなかったらどうすんだよ。
「あたしも戦うけどね。……あ、階段」
下りの階段を降りていく。
階段の手前には開きっぱなしのシャッターのようなものがあったが、機械制御だったらしいそれはもう壊れていた。
狭かった道幅は下るにつれて徐々に広くなっていく。
階段が終わったのは、ずいぶん深いところまで下りてからだった。
ひしゃげた大きなシャッターが半分ほど口を開けていた。
シャッターの向こうにはまっすぐな通路が伸びている。今までのような岩肌の道ではなく、人工的に造られた無機質な通路だ。
俺とエレナはどちらからともなくその通路を歩き出す。
「そういや、この服ってどんな能力が向上するんだ?」
「あたしのは腕力と脚力をあげるパワー重視の装備。あんたのはなにがいいのかわかんなかったから、防御と動きやすさを重視したものにしたわ」
「ほー。だからハイヒールでもこんなに歩きやすいのか」
つーかこれ防御力もあるのか。こんなフリフリなのに。すぐ破れそう。
通路を抜けた先に、
「うわ、街だ……」
廃墟の地下街、エンプティ6は広がっていた。
何百年たってもなお生きている半分ほどの街灯のおかげであたりを見回せた。
廃墟の街は思っていたよりもずっと広かった。間隔は少し狭いが朽ちた家屋が立ち並び、街の中心部にはビルのような背の高い建物も見える。
そのビル群の真ん中から、
「なんだありゃ?」
筒状の建築物が高い天井に向かって伸びていた。
ここからでもかなりはっきりと見えるそれは、間近で見たら相当な大きさのはずだ。
「エレベーター……かな? 地上に続いてるみたいだし……。地上との行き来にはあれが使われたのかしらね?」
「てことは、俺たちが通ってきたのは非常口かなにかってことか? あれ、待てよ。地上との行き来ってことは、
「そうよ。知らないの?
「そうなのか? じゃあなんで
「さあ。そのへんの謎はまだ解明されてないのよ」
エレナはあたりをきょろきょろと見回して、ポケットから紙を取り出す。今のところジャンクが近くにいそうな気配はなかった。
「地図によると、エンプティ6は三つの階層に分かれてるみたいね」
「で、『メルヘンズ』はどこにあるんだ?」
「さあ?」
「さあって……まさかわかんないのかよ?」
「わかんないわよ。イオリ先生の話聞いてたでしょ? 一度手に入れた誰かがどっかに落としちゃったのよ。ネットでいろいろ調べてみたけど、どこに落としたかまでは出回ってないみたい」
「マジかよ……。じゃあ、この広いエンプティ6を手当たり次第に探しかないのか……」
見つかる気がしねぇ……。
「でもジャンクから逃げてる途中で落としたってことは、どっかに隠れてるわけじゃなくて、その辺にコロッと落ちてるってことだよな。それならまだなんとかなりそうな気がする」
ということで、俺とエレナは足元を見ながら『メルヘンズ』捜索をはじめた。
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