第16話「エレナの実力」

「もう少し難しい魔法になると、発動に予備動作プレパレーションと呼ばれる一定の手順が必要になります。そういった魔法を習うのは二年生からですね。一年生のみなさんはまず、中等部で習った初級魔法の復習をしましょう。

 ブライトくん。たしかあなたは進級テストで初級魔法三つの発動に成功していましたね? 見本を見せてもらってもいいかしら」


「はい」


 今度はトバリが前に出る。

 先生が壁際の棚から燭台を取り出して、三本の蠟燭を載せた。


「“だん”」


 ポポポッと蠟燭に火が灯る。難なく魔法を使いこなすイケメンの姿に、ほぅ……と女子生徒たちが吐息を漏らす。


 けっ、気に入らねぇぜ。


「お見事です。力の調節もよくできていますね。進級テストのときには火柱をあげたと聞いてましたから、ちょっと心配していたんですよ」


「さすがにここで火柱はあげませんよ」


 トバリが苦笑する。


 強い魔法も使えるし、力の調節もできる。

 学年一位の成績は伊達じゃないってことか。


 トバリを席に戻して先生は言った。


「ブライトくんやホワイトさんのように、みなさんも自分にあった呪文を見つけてください。それでは、まずは各々で初級魔法の練習をしましょう」


 生徒たちがわらわらと席を立つ。

 炎魔法練習用の蠟燭を用意したり、水魔法練習用の水槽を用意したり、土魔法練習用の粘土を用意したりと各自でいろいろと取り揃えるなか、


「あんた、なにぼーっとしてんのよ?」


 俺はなにも用意せず、エレナが蠟燭を持ってくるのを待っていた。


「俺初級魔法だったらだいたいできるし、おま」


「言葉遣い!」


「……エレナに教えてやろ……あげようかと思って」


「別にいいわよ。なんか悔しいし……」


 声はちょっとうれしそうなわりに、顔は本気で悔しそうだった。


「む。私ごときに頼るのは嫌ってことか?」


「そ、そうじゃなくてっ! まずは自分でがんばりたいの! もしかしたら、自力でできるかもしれないし!」


 まじめなやつめ。

 ま、そういうことならまずは様子見といくか。


 エレナは蠟燭を見つめてぼそっとつぶやく。


「……ファイア」


 しーん。


 何も起こらない。


 エレナはしばらく「ファイア」「しーん」を繰り返したあと、


「……マカゼ」


 ギギギ、とぎこちない動作で俺の方を向いた。


「……魔法ってどうすればできるの?」


 エレナは恥ずかしそうにうつむきながら訊いた。

 こいつは基本的に一人でなんでもできるから、人に頼ることに慣れてないんだろう。

 恥じらう美少女はイイなー。


「呪文がテンプレすぎるんじゃないか? もっと自分の脳内イメージにあった言葉を考えてみろ」


「……だって、他に思いつかないんだもん」


「それと、ちゃんと具体的にイメージできてるか? 魔法ってのは術者のイメージを具現化するものだから、言い換えれば具現化できるほどの具体的なイメージが描けないと使えないんだ。最初のうちはこの『具体的なイメージ』ってのが結構難しいから、まずはイメトレから入ったほうがいいかもな」


 エレナはあれこれ呪文を変えて蠟燭に呼びかける。


 しかし蠟燭はうんともすんとも言わない。


 他のやつらは、できないやつでも煙が出るとか火花が散るとかくらいはしてるんだけどなぁ。


 結局授業終了までエレナの蠟燭はなんの反応も見せなかった。

 エレナ超悔しそう。

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