二十一話 城山高校へ その7

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺の存在を否定する言葉を吐きながら釘バットをフルスイングをする四十九院つるしいんと、それを必死の形相で回避に成功する俺。


 あ、危なかった――って、まだやる気か!?


「避けんな! 下着ドロ!!」

「ぬぉぉっ……!?」


 四十九院の降り下ろされた釘バットを紙一重で避けた。

 そして直ぐに四十九院からバックステップで距離を取ろうする。


「ま、待ってくれ……! あの時はホントに悪かったからちょっと待ってくれ!!」

「嫌に決まってるでしょ、この性犯罪者! アタシのお気に入りのブラを剥ぎ取ったクズを見逃す気は全くない!! だから今すぐ死ねぇぇぇぇぇぇ!!」


 怒り心頭の四十九院は、再び釘バットで俺の頭をかち割ろうとする。そんな時だった。

 一発の乾いた銃声が辺りを響かせたのである。


「取り敢えず二人の事情を教えてくれる?」


 拳銃を上空に向けるシロの姿が目に入ってきた。どうやら先ほどの銃声はシロの仕業のようだ。


「いや、なんつーかな……。異界浸食が起きた次の日に明日香とトラブルを起こしたんだよ」

「どんなトラブルよ?」

「ドラッグストアで物資の調達。ミネラルウォーターを手に入れようとしたら明日香の……その……む、胸を鷲掴みをしてしまった」

「「変態」」

「うぐっ……」


 シロとニアの言葉が俺の心に突き刺さった。


「アタシの胸を触っただけではなく、ブラも盗んだでしょうが!!」

「あれは釘バットを盗もうと思ってスキルを使ったんだよ! 失敗してブラを盗ってしまったのはマジで悪かったけどな!!」

「悪かったと思うなら今すぐに死になさいよ!」


 そう言いながら釘バットを横に薙ぎ払う四十九院だが、四十九院との距離がある俺はそれを余裕で回避することができた。


「危ねぇな。てか、俺の命なんてそんなに価値ないだろ。だから俺の命の代わりに何かしてやるから許してくれ。あるいはモノでも構わないからさ」

「じゃあ、命以外全部よこせ!!」

「ざけんな! 限度と言うものがあるだろうが! つーか、これ以上乱暴する気ならシロが黙ってないぞ! なぁ、シロさん!」


 俺は必殺の拳銃を持つシロの顔を見る。

『仲間の俺を助けてくれるよな』そんなアイコンタクトでシロに助力を求めるが、


「変態を助ける理由があると思うの? それどころか明日香に加勢したい気分なんだけど」


 あえなく拒否されてしまった。


 俺とお前、仲間じゃなかったのか……!? 人の皮を被った悪魔の立川のアジトで物資を頂戴した共犯者だろ、俺達!?


「ならば、ニア! 友達の俺を助けてくれるよな!!」

「うぇぇっ……!?」


 ニアは俺の言葉に驚き戸惑った。


「ニア、いくら友達だからってザキを助ける必要はないわよ。むしろ間違っているのならそれを正すのも友達の役目だからね」

「た、確かに……!」

「黙れ、シロ! 俺の友達を惑わすんじゃねぇ!!」

「惑わしてるのはザキの方でしょ!! いい加減、罪を償いなさいよ!!」


 シロは俺に拳銃を突き付けながら言った。

 自分の問題は自分で片付けろ、そんな目で俺を見るシロでもある。

 ちなみにニアはシロの後ろに隠れている。俺の手助けはしない、そんな意思表示をしているようだ。


「仲間に見放されるとは随分と人望がないね、アンタ」

「やかましいッ! てか、二人の助けがなくてもどうにかできるっての!!」


 俺はシャドーボクシングをしながら声に出した。同時に四十九院相手にどうやって勝つかを考えようとする。


 スピードだけはこちらの方が上だから、落ち着いて回避すれば問題ないだろう。

 もっとも回避するだけでは勝利を手に入れられないので、こちらから何かを仕掛けなければならない。

 とは言え女子を殴るのはちょっとやりづらいし、ナイフで攻撃するのはもってのほかだ。


「攻撃するのはNGなら取るべき手は一つだけか……」


 四十九院の得物に視線を向けながらポツリと呟いた。

 それは四十九院に怪我を負わさずに無力化する方法は、四十九院の得物を奪うしかないと判断したのである。


「何を企んでるのか知らないけど、取り敢えず死んでくれる? 今直ぐにッ!!」


 四十九院は釘バットを大きく振りかぶりながら突っ込んでくる。


「悪いけどまだ死ぬつもりはない! だから抵抗させてもらうぞ!!」


 俺の元に突っ込んでくる四十九院に警告を発すると同時に、四十九院の攻撃モーションを冷静に注視する――今だ!!


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「そこだぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び声をあげながら俺の頭をかち割ろうとする四十九院と、四十九院が持つ釘バットをスキル『盗み』で奪い取ろうとする俺が、シロとニアが見守る中で交差する。

 そして直ぐに俺と四十九院は無傷のまますれ違いを果たした。


 スキルは上手くいった……よな? 柔らかいモノを握りしめる感覚が確かにあるし…………柔らかい?


「何だ? この生暖かい布切れ――ッッ!?」


 スキルで手に入れたモノを確認しようと両手で広げた俺は、白いレースと可愛らしいピンクのリボンが付いた女物のパンツを持っていたことに気付いた。


 や、ヤバい……!

 前回のブラジャーもそうだけど、これはマジでヤバ過ぎる!!

 てか、ヤンキーJKの明日香にしては随分と可愛らしい下着だな……。清純の白より豹柄とかの方が似合いそうだが――じゃねぇ!! 釘バットを盗む気だったのに、何でパンツが盗れるんだっての!!


「また避けられたか……。でも次こそは――ッッ!?」


 四十九院は俺の両手に持つパンツに目を剥く。


「アンタの手に持つパンツ……あ、アタシのじゃないよね……?」


 そう言いながら自分のお尻を触る四十九院。すると炎のような激しい怒りの表情を出す四十九院の顔が目に飛び込んでくる。

『絶対に殺す!!』そんな四十九院の様子に、俺は思わず後ずさりをしてしまった。


 ど、どうしよう……。

 釘バットを盗んで終わり――そう決着しようと思ったのに、逆鱗に触れるような真似をしてしまったんだけど……あ、謝れば許してくれるかな? 土下座でビンタ一発まで減刑してくれるよね?


「「最低……」」


 白い目をしながら俺に罵倒するシロとニア。結果的に四十九院のパンツを盗ってしまった以上、二人に罵倒されるのは自明の理であった。少々理不尽な気がしないわけでもないが。


「遺言を聞いてあげるからさっさと言え、この変態……」


 四十九院はゆっくりと俺に近づく。凶悪過ぎるフォルムの釘バットで俺を殺すまで滅多打ちにする気なのだろう。


「ま、待ってくれ……! 悪気はなかったんだ! ただ武器を取り上げれば諦めてくれるだろう、そう思ってスキルを使ったんだよ! だから、その……ゆ、許してくれ!!」


 ジリジリと距離を詰めてくる四十九院に、俺は正面を向いたまま後ろに下がる。


 また逃げるべきか……!

 それとも抵抗や説得をするべきか?

 抵抗するとなるとお互い怪我をすることになるから論外なので、説得するしかないのだが、俺を攻撃するのを止めさせる材料が思い付かない……。


「それがアンタの遺言ね……。なるべく苦しまずに殺してあげるから感謝しなさい」

「その心遣いはマジで要らない! つーか、ホントに悪かったってば!!」


 うら若き乙女のパンツを剥ぎ取ってしまったとは言え、キレ過ぎだろ! マジで俺を殺す気か!? ならば遠慮や恥は全部捨ててやるからな!!


「だ、誰かッ! 誰でも良いから俺を助けてくれ! 特攻服を着た女子に殺される!!」


 今いる場所。虫タイプのモンスターが生息する森林型のダンジョンの内部にいる俺は、辺りを響くような大声を出した。


 俺達以外の人間がいるとは思えないけど、誰かがやってくると思わせれば何とかなるんじゃね――って、流石に無理があるかな? 無様に喚く作戦は……。


「ちょっと!? 声を上げるなんて卑怯だぞ!!」


 四十九院は驚きの表情を出しているようだ。

 まるで俺の作戦とも言えないような作戦が、今の四十九院にとっては効果的のようである。


 声を上げられるのが嫌なのか? でも何でだろう? 見た目が不良の女子高生だから、警察や補導に警戒しているのだろうか? もしくは……。


「そう言えば面倒ごとに巻き込まれていると言っていたな」

「(ギクッ!?)」


 俺の言葉に分かりやすい反応を見せる四十九院――しめた!!


「誰かー! 誰かー! 釘バットを持った茶髪の女子高生に殺されるー!! 誰かー!!」

「待って! ホントに待って!! アンタのことを許……したくないけど、叫ぶのはホントに止めて!!」

「叫ばれたくなかったら俺を許せ! 誰かー!! ノーパンの変態女子高生に辱められるー!! 誰かー!!」

「分かったから!! 今日のところは見逃してあげるから叫ばないで!! あと誰が変態女子高生だ!!」


 怒りの表情を出し続けている四十九院は、俺との距離を取ろうとしている。どうやら諦めてくれたようだ。


「俺の勝利だぐぶぇ!?」


 勝利宣言を口にした瞬間、脇腹からの痛みに苦言を漏らしてしまった。シロがショットガンで俺の脇腹を目掛けてフルスイングしたからだ。


「な、何をするんだ、シロ……」

「明日香の代わりに制裁をしたんだけど、何か? それより早くパンツを渡してあげなさいよ」


 怒りの形相をするシロの様子が目に入ってきた。下手に逆らったらヤバい事になるだろう、そんな態度をしているようである。


「言われなくても分かってる。男の俺が女物の下着を持ち歩くのはヤバいからな。ほら、受け取れ」


 俺は四十九院に向かってパンツを投げた。

 怒りに満ちた四十九院に直接渡す勇気はない以上、パンツを投げ渡すしかなかったからだ。そんな時だった。


「「カァー(ぱくっ)」」


 双頭の黒いカラス『漆黒の魔鳥』が投げたパンツをくわえ、そのままピューっと明後日の方向に消えてしまったのである。


「「「…………」」」


 突然の出来事に驚き固まる俺達。

 そんな俺達が再起動するのに数秒掛かってしまったのであった。

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