十話 インターミッション

 一日一回の無料ガチャ。

 それはソーシャルゲームに良く出てくるサービスの一つである。

 アイテム、キャラクター、装備品などが手に入るガチャシステム。そのガチャが一日一回だけ無料で回せるサービス『一日一回の無料ガチャ』があるのだ。

 そんな『一日一回の無料ガチャ』は、毎日ガチャを回した方が得なのは当たり前の話である。

 何故ならこの『一日一回の無料ガチャ』で獲得できる品々は、ソーシャルゲーム内のアイテムではなく、現実世界で使用が可能のマジックアイテムだからだ。

 八百万の神々が作り上げたマジックアイテムであり、異界浸食で湧き出たモンスターを排除するのに便利なマジックアイテム。

 それらのマジックアイテムを獲得するチャンスを逃すのは、アホだと罵倒されても仕方がないだろう。

 なので俺は早速『一日一回の無料ガチャ』を実行する。


『おめでとうございます。殺虫剤が当たりました』


 俺の目の前に浮くスマホ――神使の念話が聞こえてきた。

 それと同時に神使スマホの画面から光の粒子が現れ、その光の粒子がスプレー缶タイプの殺虫剤に変化していく。高さ三十センチのスプレー缶タイプの殺虫剤だ。ちなみにボディには『虫モンスターを絶滅させてみよう♪』がポップデザインで書かれている。


「この殺虫剤、ホントに虫タイプのモンスターを殺せるんだろうな……?」


 中央駅前地域交流館のロビーの隅――革張りの椅子やテーブルが置かれた場所に居る俺は、怪訝な表情を浮かべながらスプレー缶タイプの殺虫剤を見つめた。

 また『八百万の神々が作ったマジックアイテムだから大丈夫なんだろうけどさ、ちょっと不安だよなぁ……』などと考えながら神使に意識を向ける。

 すると神使の念話が聞こえてくる。


『問題ありません。見た目は市販の殺虫剤に見えますが、虫モンスターを屠るのに十分な威力があります。また使用者はもちろんですが、人間には害のないガスが入っております。妖精のニアには効くかどうかは不明ですが……』

「効くかどうかって、ニアは敵じゃねぇんだけどな。昆虫の様な翅を持っているとは言え、虫モンスターではないだろうし……ってか、仲悪いの?」


 殺虫剤がニアに効くかどうかなど物騒な事を言う以上、神使とニアの仲が悪いのは鈍感な俺でも察せるのだが……はてさて、何が原因で仲が悪いのだろうか?


『ノーコメントです。それよりステータスの確認をしてはどうですか? それとクエストの報酬がありますので、忘れずに確認してください』

「分かってるよ、神使。どれどれ……」


 一日一回の無料ガチャを回し終えた俺は、自分自身のステータスを確認し始める。


『メイン』

 名前 黒崎颯人

 Lv 9←NEW

 性別 男

 年齢 17

 職業 シーフ Lv2

 装備 武器 無し

    防具 普段着(物理防御力 1)

    特殊 盗人の手袋(速さ&器用さ 5)

 状態異常 無し

 GP 537


 レベル、結構上がったな……。

 立川のアジトから脱出する際に戦ったコボルトに、ニアの記憶を取り戻す為に行動している途中に戦ったスケルトンドック。そしてダンジョンボスの黒獅子を倒したんだから、当然と言えば当然なのだが……っと、サクサク先に進めよう。


『基本値』

 スタミナ 47/47(+12)←NEW

 マジック 30/30(+10)←NEW

 物理攻撃力 22(+6)←NEW

 魔法攻撃力 18(+5)←NEW

 物理防御力 17(+5)←NEW

 魔法防御力 14(+5)←NEW

 速さ 37(+12)←NEW

 器用 23(+6)←NEW

 幸運 18

 成長タイプ 速さ

 次のレベルまであと 250


 俺の『速さ』、凄くね……?

 成長タイプが『早さ』だから当たり前かもしれないけど、この数値は高い方ではないのだろうか? もっとも他の人の基本値が分からないので、高いかどうかの判断がつかないのだけど……。


「今日の幸運は高いのか、低いのか、良く分かんねぇな……。つーか、これから何かをする予定はないから幸運の数値なんてどうでもいいんだけどな――っと、ついでにスキルでも確認しとくか。それと魔法も確認しておこう」


『どうせ魔法は使えないだろうけどな』そう思いながら先に進める俺。


『呪文』

 無し


『特技』

 盗み Lv2←NEW、鍵開け Lv2←NEW


『特殊』

 火事場の馬鹿力 Lv1、品定め(シーフ限定)、罠察知(シーフ限定)←NEW


 やっぱり魔法は獲得してなかったか……。

 でも『盗み』と、『鍵開け』がLv2に上がってる。それと前回見たときは無かった『罠察知』があるな。もっとも立川のアジトにあった罠を察知したり、ダンジョン内にあった罠を察知した事もあったので、シーフスキル『罠察知』を獲得しているだろうなと思ってはいたけどな。


「最後はクエストの確認か――って、そう言えばダンジョンを踏破したんだよな、俺は……。って事は何かいいアイテムを獲得できるんじゃね?」


 ダンジョンボスの黒獅子ルビーアイを倒したので、かなりレア度の高いアイテムが手に入ってもおかしくない――そんな期待を込めながらクエストを確認する。


 クエスト受注一覧

 ヒトカミダケを100体倒そう 報酬 癒しのベル

 ゴブリンを10体倒そう 報酬 100GP

 スケルトンソルジャーを5体倒そう 報酬 200GP

 オークを5体倒そう 報酬 200GP

 Lv10以上達成 報酬 エリクサー

 職業Lvを3以上達成 報酬 ダイナマイト


 クエスト完了一覧

 仲間を作ろう 報酬 聖なるロウソク←NEW

 コボルトを10体倒そう 報酬 100GP←NEW

 スケルトンドッグを10体倒そう 報酬 100GP←NEW

 ダンジョン攻略しよう(初回) 報酬 暗闇のコート←NEW


「おっ! 何か良さそうなアイテムが手に入りそうだな……ってか、『仲間を作ろう』のクエストが完了ってどういう事だ?」

『マスターの元クラスメイトである立川亨の部屋に忍び込んだ際、シロと出会った事を覚えていますか?』

「ああ、もちろんだ……って、シロと一緒に行動したから『完了扱い』になっているのか?」

『その通りです。ちなみに『聖なるロウソク』はモンスターを遠ざける効果を持っております。特にアンデット系のモンスターには不可侵の結界の様な効果を発揮します。それと持続時間は六時間ぐらいですので、注意してください』

「了解っと……。取り敢えずクエストの報酬は全部受け取りで頼む」

『かしこまりました、マスター』


 そんな神使の念話を俺の脳内を響かせた瞬間、神使から『聖なるロウソク』と、『暗闇のコート』が現れた。シルプルな燭台に付いた一本の白いロウソク『聖なるロウソク』と、『暗闇』の名が付く様な真っ黒のトレンチコート『暗闇のコート』が現れたのである。


「カッコいいな、この暗闇のコート。真夏の日にはちょっと遠慮したい気はするが……」


 暗闇のコートを両手で持つ俺は、『熱中症や、脱水症状が怖いな……』そんなネガティブなイメージを膨らませている。


『真夏の日に装備しても問題ありません。何故ならその暗闇のコートは八百万の神々が作り上げた名品であり、雪山の寒さどころか砂漠の暑さでも快適に過ごせる逸品です。さらに闇属性のダメージを半分にする効果を持っております。また暗闇のコート自体の防御力も優秀ですので、特別な事情がない限りは装備した方がよろしいかと』

「ふむ……。闇属性のダメージを軽減させる効果を持つとなると、神使の提案をそのまま受け取るのもいいかもしれないな……」


 それと真夏の日でも快適に過ごせる事が出来るのであれば、暗闇のコートを装備しても問題ないんじゃね?


『ところでマスター。ガチャをするつもりはないのですか? 一回100GPでガチャをまわせるので、七回連続でガチャをまわせますが……』

「ガチャか……。便利なマジックアイテムを手に入れるチャンスなんだろうけど、今はちょっとなぁ……。持ち運びが可能な小物であれば問題ないのだろうけどさ」


 物資を保管できる場所『生活拠点』を持っていたり、大量の荷物を収納できる魔法の鞄があるのなら話は別なのだが……。


「取り敢えず今日はパスだ。異界浸食が起きてからまともに休んでなかったから、本日の営業はこれで終了だ、終了。神使もゆっくりしたらどうだ?」


 一日一回の無料ガチャと、ステータス確認を終えた俺は、勢い良く椅子に――中央駅前地域交流館のロビーの隅にある革張りの椅子に腰を下ろした。


 自分で言うのも何だけど、まるで仕事から帰ってきたオッサンがソファに飛び込んだ、そんな姿だな、今の俺……。


『私に休息の必要はありませんので、お気になさらずに。ですがマスターの休息に邪魔したくないので、しばらく大人しくしています。何か用がありましたら遠慮せずにおっしゃってください』


 そう言い終えた神使は、俺が座る椅子の近くに置いた学生鞄の中に引っ込んでいった。


「色々と疲れたしこのまま寝ようかねぇ……。この暗闇のコートをタオルケットの代わりにする形でさ……」


 俺は眠そうな顔をしながら『椅子に座りながら寝るべきか、それとも床に寝そべるべきか、地味に悩むなぁ……。クソどうでもいい悩み事だが……』などと考え事をしていると、


「ふぃー……。サッパリしたー……」


 腰まで伸ばした金髪をなびかせながらやってくるニアの姿が目に入った。それも上機嫌な笑みを浮かべるニアの姿であり、石鹸のいい香りがふんわりと漂わせるニアの姿であった。


「随分と機嫌が良いな」

「まぁねー。ニイジマサンが私の髪を洗ってくれたからねー。ほら、この髪を見てみなさいよ!」


 ニアは俺の目の前でクルリと一周する。すると櫛の通った長い金髪が、艶を出しながらふわりと流れるのが見えた。


「自慢の髪に見惚れなさいよ! シャンプーとリンスで美しく生まれ変わった私の髪に!!」

「おー、キレイキレイ……」


 ハイテンションでドヤ顔をするニアに、俺はテキトーに褒め言葉を送った。


「でしょー! もっと褒めなさい! もっと称えなさい! そして美味しいお菓子を私に献上しなさいよ!!」


 そう言いながら頭をぶんまわすニア。腰まで伸ばした髪が上下に行ったり来たりしている姿はまるで――


「歌舞伎の連獅子みたいになってんぞ……。ってか、新島さんはどうしたんだ?」

「ニイジマサンとはついさっき別れたわよ。用事があるからゴメンねって。それより美味しいお菓子を私に! 空腹に喘ぐ哀れな美少女の私にッ!!」

「自分の事を美少女って呼ぶか、普通……? でもまぁ、俺のクッキーをやると約束したから勝手に食っていいぞ。あと新島さんからもらった缶詰の一つ『鶏めし』もな」

「いえーい♪」


 お菓子だけじゃなく缶詰をプラスした事に笑顔でクルリとターンを決めるニア。そして俺達は全力で休息する事に務めるのであった。

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