三話 数時間前の出来事【後】

『ガルーダ相手にどう立ち回ればいい?』そう考えようとする俺は、空爆を続けるガルーダの群れを視界に入れる。

 するとそう遠くない場所から曳光弾らしき光の線が、空飛ぶガルーダに向かっていくのが見えた。

 それと同時に雷系の魔法らしき閃光や、高速で飛翔する矢などの対空攻撃を確認できた。


「俺の銃弾を食らいやがれ!! 化け鳥め!!」

「サンダーアロー!! サンダーアロー!! いい加減死になさいよ、サンダーアロー!!」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!! 俺の家を破壊された怒りを味わえ!! サンダースピア!!」


 スイカボムの自爆による爆発音が響き渡る中、俺以外の人間の声が様々な方向から聞こえてきた。

 どうやら空飛ぶガルーダを仕留めようと戦っているようだ。それもかなりの人間が参加しているのが分かった。

 まるでオンラインゲームの醍醐味の一つ。レイドバトルが現実に起きている様な光景である。

 しかし――


「攻撃が効いている様に見えねぇな……! 十メートル以上の体格を持つガルーダ相手では流石に火力不足だとでも言うのかよ!!」


 ガルーダの四十近い群れは未だに健在であった。

 数百メートルの上空を飛び回るガルーダを狙う難しさと、十メートルを超える体格を撃破する威力が足りないのが原因のようだ。


「ここから逃げようよ、ハヤト!! 空飛ぶガルーダ相手に対抗する手段を持っていないんだから!!」

「それはそうだが……」


 ニアの提案に俺は難色を示した。

 明らかに格上の存在のガルーダと戦う人達が居る状況に、コソコソ逃げ回るのは『卑怯』だと思ったからだ。

 とは言えガルーダ討伐戦に参加しても、空飛ぶガルーダの群れ相手に完全勝利をもぎ取るのは無理だと理解している。

 そんな俺は

 なので後ろ髪を引かれる思いでこの場から遠ざかろうとするが、


「ニア、頼みがある……!!」


 俺の直ぐ近くに落ちてあるマジックアイテム『爆竹』を発見した。

 異界浸食が起きて三日目の朝に手に入れたマジックアイテム――立派な笹を生やした竹である。

 スイカボムの自爆で自宅が破壊された際、二階の自室の隅に置いてあった『爆竹』があそこまで飛んで行ったのだろう。


「嫌よ!! ガルーダと戦うなんて無謀すぎるって!!」

「心配するな! ガルーダと殴り合いをするつもりはない! あのマジックアイテムで攻撃するだけだ!! それが済んだらニアの言う通り、この場から逃げると約束する!!」


 どの道マジックアイテム『爆竹』のみ攻撃手段を保有していない以上、爆竹をぶっ放したら逃げるだけだしな!


「ああ、もう……!! 約束、守りなさいよ! それで私は何をすればいいの!!」

「火を持ってきて欲しい! 爆竹を使うのに火が必要だから!」

「分かったわ!! ちょっと待ってて!!」


 ニアは翅をはためかせながら火を探しに向かった。

 そして俺は近くにある爆竹を手に取り、爆竹が破損してないか確認する。


「見たところ無傷に見えるが……神使、このマジックアイテムは使えるか?」

『問題ありません。それとこのマジックアイテム『爆竹』は十の目標を同時に攻撃する事が可能です。根元にある導火線に火を点け、攻撃したい相手を思い浮かべながら投げてください』

「分かった!!」


 神使から『問題ない』とお墨付きを貰った俺は、未だに空爆を続けるガルーダの群れの動向を目にした。


 十の目標を同時に攻撃する事が出来るとは言え、十メートルを超えるガルーダを仕留めるのは困難な筈だ……!

 ならば一体だけでも確実に仕留める――いや、二体ぐらいはいけるだろうか……?

 それともアレを狙ってみるか? 上手くいけば十体のガルーダを仕留める事が出来るかもしれない……俺の予想通りであればの話だが。


「お待たせ、ハヤト!! これで大丈夫?」


 オレンジ色の炎が付いた角材を持つニアがやってきた。

 スイカボムで破壊された残骸の中から拾ってきたのだろう。爆竹の導火線の着火剤にピッタリである。


「OKだ、ニア!! それと俺が合図したら導火線……竹の根元に付いてる縄に火を点けてくれ!!」

「了解ッ!!」


 八百万の神々が作りしマジックアイテム『爆竹』で攻撃する準備が整った俺は、槍投げのフォームを取り始める。


「今だ、火を点けろ!!」

「分かった――火が点いたわよ!!」

「よし! 少し離れてろ!」


 俺は火が付いた爆竹を片手に持ちながら想像する。上空を飛び回るガルーダを仕留めるイメージ…………ではなく、ガルーダの両足で掴むスイカボムを仕留めるイメージを働かせた。


「俺の恨みを思い知れッ!!」


 そう言いながら爆竹をガルーダの群れが居る方向に放つ。

 すると自我が芽生えたかの如く勝手に飛翔し始める爆竹。根元からブースターの炎を吹き出しながらガルーダの群れに向かっていく。

 そして爆竹がガルーダの群れに殺到する直前、大きな光を出しながら分離した。光の尻尾を出す彗星が割れるような形で分離したのだ。

 そんな光の尻尾を出す彗星はガルーダの両足にいるスイカボムに直撃し、直ぐに爆発した。

 十体のスイカボムが重複する事なく直撃&爆発したのである。十体のガルーダの両足にいるスイカボム達に。


「誘爆してくれ……いや、誘爆しやがれぇぇぇぇぇ……!!」


 地対空ミサイルでもある爆竹が十体のスイカボムに直撃した事を把握した俺は、巨大モンスターのガルーダを倒す策――爆発物スイカボムの誘爆を強く願った。

 自宅を一撃で破壊する威力を持つスイカボムが誘爆すれば、至近距離にいるガルーダを倒せると思ったからだ。

 そして次の瞬間。

 夜空を震わす大爆発が起きた。

 爆竹の攻撃を受けた十体のスイカボム全てが大爆発したのである。


「よっしゃぁぁぁぁ……!! 上手くいったぜ!!」


 赤とオレンジ色の巨大な火の玉を見上げながらガッツポーズをした。


 あの威力なら間違いなく倒せたんじゃね?

 十メートル以上のガルーダを包む巨大な火の玉――うん、間違いなく倒せただろ。つーか、想像以上の威力だから他のガルーダも巻き添えになってもおかしくない。

 当然ガルーダが掴むスイカボムも巻き添えに……って、大丈夫かな? 上空で爆発するのは問題なさそうだけど、あの威力が一斉に解き放たれたら…………ヤバくね?


 俺の策が上手くいった事に喜んでいたが、スイカボムの高威力に一抹の不安が過った。

 爆竹の攻撃による誘爆から、更なる誘爆が起きるのではと心配したのだ。それも地上に被害が出る様な大爆発が起きる事を。

 そんな胸騒ぎを覚えながら夜空を見上げていると、十一回目の大爆発が目に飛び込んできた。


「うげっ……!? マジで連鎖しやがった!!」

「おお~~やるじゃないのよ、ハヤト!!」


 新たな火の玉が現れた事に顔を青ざめる俺と、能天気な声を上げるニア。

 その二人の視線の先には連続で爆発する光景が広がっていた。

 爆発の衝撃を受けたスイカボムが自爆し、他のスイカボムを誘爆させる。そして更に他のスイカボムが誘爆する光景が広がっているのだ。

 そんな誘爆から更なる誘爆を引き起こし続けた結果、太陽の明るさ以上の光が周囲を包み込んでゆく。


「地面に伏せろッ!!」

「ちょっと何すんのよ!?」


 俺はニアの体を鷲掴みしながら地面に伏せた。

 誘爆から誘爆に続く大爆発の衝撃波から逃れる為である。

 そして俺達が地面に伏せるとほぼ同時、上空から衝撃波と共に轟音が襲ってきた。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁ……!!」


 肌をチリチリと焼け付くような熱量と、体が持っていかれる程の爆風を必死で耐え続ける俺達。路上に放置されたゴミなどを含む衝撃波を地面に伏せる形で受け流しているのだ。

『爆風に負けてたまるか!!』そんな事を考えながら地面に伏せ続けていると、俺達を襲う爆風はゆっくりと収まってゆく。


「ゲホゲホ……し、死ぬかと思った……」


 灰色の煙が辺りを支配している最中、俺はうつ伏せの状態から立ち上がった。


「ニア、怪我はないか?」

「な、なんとか……。ハヤトの方はどうなのよ……?」


 俺の目の前で浮遊するニアは疲れ切った表情をしている。


「埃まみれだけど怪我はない。今日の運勢は良かったんだろう……。あの衝撃波を食らった俺とニアが無傷で済んでるからさ」

「運勢が良かったって、むしろ逆じゃないの? ハヤトの家が瓦礫の山になってるんだけど」

「…………言うなよ」


 自宅の敷地内にある瓦礫の山から視線を逸らした。


「現実逃避したくなるのも分かるけど、取り敢えず受け入れなさいよ……。それよりガルーダの群れはどうなったの?」

「多分倒せたんじゃね? 煙のせいでガルーダの群れが良く見えないけど、さっきの爆発の威力なら殲滅できてもおかしくはないだろ……多分だけど」

「ハッキリしないわね……。何か気になる事でもあるの?」

「気になるっつーか、経験値のお知らせが聞こえねぇんだよ……。モンスターを倒したら神使から『経験値がー』っと、毎回報告してくるのにさ」


 最低でもスイカボム十体は倒した筈だ。

 なのに経験値を獲得したお知らせが全く来ない……サボりだろうか?


『サボっておりません』


 神使が俺の視界に入ってくる。


「無事だったか神使――って、液晶画面がバッキバキに割れてるんだけど……!? 大丈夫なのか!!」

『先程の爆風に吹き飛ばされましたが問題ありません』


 よどみなく答える神使スマホの液晶画面には、痛々しい割れ目と青白いスパークが見えた。


「いや、どう見ても重傷じゃねぇか……!! ホントに大丈夫なのかよ……!!」

『見た目は重傷に見えますが本当に大丈夫です。2~3時間後には全快状態になりますので、過度の心配は不要です』

「ホントだな? 俺とお前は『一心同体』なんて事を言っていたと思うが……」

『マスターが死んだら私も死ぬ――それは本当です。ただし逆はあり得ません。不死身のボディを持つ私ですので、マスターを置いて逝く事は絶対にあり得ません』

「不死身だと……マジで? 文字通り粉々に砕け散っても復活するのか?」

『時間がかかりますが問題ありません。またペナルティといった事もありませんので安心してください』


 それは助かるな――ってか、神使のボディよりモンスターの経験値について聞きたいんだよ、俺は……!


『モンスターの経験値のお知らせはありません。何故ならマスターの攻撃で仕留めた訳ではありませんので……』


 俺の考えを読み取る事が出来る神使は直ぐに答えた。


「どういう意味だ……? 俺の最初の攻撃――爆竹での攻撃で少なくとも十体のスイカボムを撃破した筈だが……見間違いだったのか?」

『いえ、確かにマスターの攻撃で十体のスイカボムを自爆させました。ただし十体のスイカボムを『仕留めた』のではなく、十体のスイカボムを『自爆させた』のです。なのでモンスターを倒した事による経験値がないのです』

「なにそのトンチじみた答え……」


 貴重なマジックアイテムを使用したのに獲得経験値がゼロって、納得できるか――そう神使に抗議しようとする直前、ニアの言葉が俺の耳に入ってくる。


「ねー、ねー、シンシはなんて言ってたのー?」


 神使の念話を聞き取る事が出来ないニアは、不機嫌そうな表情を浮かべているのが分かった。


「あー、なんつーか……あれだ。俺の攻撃でモンスターを倒したのではなく、自爆したから経験値ゼロだとさ」

「……ケイケンチってなに?」

「経験値は経験値だよ。モンスターを倒したら経験値を獲得し、ある一定を超えたらレベルアップする。その経験値だよ」


 ニアの疑問を答えながら夜空を見上げる。

 そこには灰色の煙が徐々に晴れていく夜空があった。


 夜空を照らしていた照明弾の光源が何処にもねぇな……。

 最後の大爆発に巻き込まれたのだろうか? それとも単純に時間切れを迎えたのだろうか?

 もっとも東の向こう側から白い明かり――薄明と呼ばれる明かりが見えてきたので、最後の大爆発の結果を確認するのに問題なさそうだ。


「ガルーダが見つからない――って事は、全滅させたと考えてもいいのだろうか……いや、全滅したんだろうな」


 巨大な鳥モンスター『ガルーダ』の影や気配は何処にも無いのが分かった。

 なのでガルーダを全滅させたと俺は直感するのであった。

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