二話 数時間前の出来事【前】
生活拠点でもある自宅が見るも無残な瓦礫の山になる直前の午前三時三十分。俺とニアは二階の自室で就寝していた。
ダンジョンを支配する『黒獅子ルビーアイ』との激戦の疲れを癒す為と、予測不能の明日に備える為の休息を取っているのだ。
同時にモンスターから寝込みを襲われても直ぐに対処出来るよう、土足を履いたままベッドの上で寝ている。
それと直ぐに屋外で行動出来るよう普段着を着用しているのだ。白いTシャツと青のジーパンといった面白みのない格好である。
本当は普段着より防御力が高い学生服を着たまま寝たかったのだが、黒獅子ルビーアイとの戦いで学生服がボロボロになってしまったので、渋々防御力が低い『普段着』を装備しているのだ。
ちなみに妖精のニアは俺の顔の近くで眠りこけている。暑苦しい夏の夜にもかかわらず、普段着でもある深紅のドレスを纏っているのだ。俺と同じくモンスターの襲撃に備えて。
そんな就寝中の二人(俺とニア)の耳元に、雷が落ちた様な轟音が飛び込んできた。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!?」
「きゃああああぁぁぁぁぁぁ……!?」
突然の轟音に飛び跳ねる様に起き上がる俺とニア。
そして直ぐに轟音の正体を確かめようと視線を動かす。
すると神使――俺のスマホに憑依した神使の背面ライトに照らされる『球体』が目に入った。
「巨大なスイカだと……!?」
フローリングの床を陥没させた『球体』の見た目を口にした。
スイカ……だよな……?
濃い緑色と黒の縞模様の外皮を持つ球体と言えば、真っ先にスイカだと思い浮かべるのだが……。
「一メートル以上の巨大なスイカなんて食欲が失せるな……ってか、何処から現れたんだ? このお化けスイカは……?」
目の前にあるお化けスイカから天井を見上げる。
人間一人が余裕を持って通れるほどの大穴を開けた天井と、その大穴から夜空に浮かぶ満月を確認した。
「マジかよ……。ブルーシートで覆い隠せるレベルの大きさじゃねぇぞ、この穴……」
屋根のダメージといった特殊な案件に、俺は頭を抱えざるを得なかった。
危険極まりないモンスターが屋外を闊歩している以上、屋根の修理業者を呼ぶのは不可能だと知っているからだ。
雨が降ったらどうすんだよ……。
それとモンスターがこの穴から侵入する可能性もある……はぁ、最悪な状況じゃねぇか。
「食いしん坊のニアにとっては天の贈り「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」」
俺の言葉を唐突に遮るニア。
その表情は恐怖に支配されているようだ。
何事だ――そう口に出そうとする俺は、窓ガラスに体当たりをしようとするニアの姿が目に映った。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁッッ!!」
窓ガラスに衝突する直前のニアを鷲掴む事に成功する。あ、危なかった……!!
「何すんのよ、ハヤト!?」
「それはこっちのセリフだ!! 窓ガラスに突っ込めば大怪我するんだぞ!! そんな事も分からねぇのか!!」
「怪我で済むなら問題ないわよ!! あのモンスターの手によって『爆死』するより遥かにマシだからッ!!」
「爆死だと……!? どういう事だ!! あのモンスター……って、あのスイカはモンスターなのか!?」
ニアの聞き逃せない発言を聞き取った俺は、目の前にある巨大なスイカを凝視する。
「ガッガガガ……」
巨大なスイカから不気味な声が聞こえた。
それと真横に回転し始める巨大なスイカ。すると不気味な笑みを浮かべる目と口が見えてきた。
「じょ、冗談だろ……!?」
目の前にある巨大なスイカ――ではなく、スイカ型のモンスターに恐れ戦いた。
国民的RPGに出てくる名物モンスターを思い浮かべたからだ。不気味な笑みを出す顔が付いた球状のモンスター。その凶悪過ぎる必殺技『自爆』をする姿に。
「ガガガガ……!!」
耳障りな声を上げるスイカ型のモンスターは、濃い緑色と黒の縞模様の外皮を点滅し始めた。
また点滅の間隔は徐々に短くなっていく。
「じ、自爆よ!! スイカボムの自爆の秒読みが始まったわ!!」
俺の鷲掴みから抜け出すニア。
「自爆を食い止める方法は!!」
「そんな暇ないわよ!! さっさと窓から逃げて!!」
「クソッッ!!」
『いつ爆発してもおかしくはない』そう主張するニアの言葉を受け取った俺は、両手で顔をガードしながら窓ガラスに体当たりをした。二階の自室の窓から屋外に緊急脱出をしたのだ。
続いてニアも俺が通った窓から屋外に脱出を果たす。
そんな二人が屋外に脱出した瞬間。
眩い光と共に凄まじい衝撃波が俺とニアの背後から襲ってきた。
スイカボムが落ちてきた衝突音より遥かに大きい爆発音も襲ってきたのである。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ……!!」
背後からの爆風に吹き飛ばされる俺とニア。
その二人は直ぐにアスファルトの路上に叩き付けられた。
「し、死ぬかと思った――っと、俺の家はどうなったんだ!!」
アスファルトの路上に寝そべりながら自宅を確認する。
そこには自宅だった瓦礫の山が出来ており、小さな火の粉と一緒に黒煙が空高く昇っていた。
何処からどう見ても『大破』判定の損害状況である。
「俺の家がぁぁぁぁぁぁぁぁああああッッ!!」
大破判定の自宅前で叫び声を上げた。
赤ん坊からの思い出が詰まった自宅が、一瞬で瓦礫に生まれ変わってしまったからだ。
お、俺の部屋が……。
愛用のパソコンやゲーム機などの宝物が……。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお……!! 何で俺の家がスイカボムなんて変なモンスターに破壊されなきゃいけないんだよッッ!!」
「落ち着いて、ハヤト!! 家を破壊されて悔しいのは分かるけど、ここから避難しないと不味いわよ!! スイカボムが空から落ちたという事は『ドゴォォォォォォンンン!!』」
隣の家から雷が至近距離で落ちた様な音が聞こえてきた。
憎たらしいスイカボムが自宅の屋根を突き破った音に似た衝突音でもある――ま、まさか!?
「伏せてハヤト!!」
「ッッ!?」
俺はニアの警告に従う。
そして隣の家の二階にある窓から眩い光が見えた直後、隣の家から爆発音と共に衝撃波がやってきた。
「うおおおお……!!」
「きゃあああ……!!」
俺とニアは路上に張り付く形で爆風をやり過ごした。高速で吹き飛ぶ木材などの破片を、うつ伏せで回避する事に成功したのである。
何が起きてるんだ……!?
何もない筈の空からスイカボムが連続で落ちてくるこの状況、一体何が起きているんだよ……!?
『スイカボムが連続で落ちてくる』そんな異常事態に驚愕する俺は、そう遠くない場所から閃光が走るのを確認した。
それと空気を震わす爆発音が、先程の閃光が走った場所からワンテンポ遅れて聞こえてきた。
更に先程の場所からだけではなく、ありとあらゆる場所から閃光と爆発音を確認したのである。
「まるで空爆の最中に居るみたいじゃねぇか!?」
そう言いながら夜空を見上げた瞬間、何処からともなく花火が打ち上がるのを見えた。
『マジックアイテム『小さな太陽』です。夜空を照らす照明弾でもあります。普通の照明弾より持続時間が長いのが特徴的です』
不意に神使の念話が俺の脳内を揺さぶった。
また神使の念話が終了した直後、打ち上った花火が大きく破裂した。夜空を照らす小さな太陽が生まれたのである。
誰が照明弾『小さな太陽』を打ち上げたのか分からないが、願ったり叶ったりの状況じゃねぇか!
月明りと星明りだけでは何が起きているのかサッパリ分からなかったからな――って、
「巨大な鳥モンスターだと……!?」
人工の太陽に照らされた夜空を見上げる俺は、目測十メートルを超える鳥タイプのモンスターに驚き戸惑ってしまった。
全身を真っ黒の羽に覆われ、長い
しかも単独ではなく四十近くの鳥モンスターが飛び回っている。
「が、ガルーダがこんなに……!?」
ニアは我が物顔で飛び回る鳥モンスターを『ガルーダ』と口にした。
「あのモンスターの事を知っているのか!!」
「えっ……!? 知らないの……!? スイカボムという名の死を振りまく悪魔の鳥――ガルーダの事をッ!!」
「ゲームや漫画によく登場する名前だけど、現実に存在しないから知らねぇよ!! 少なくともガルーダは伝説上の生物――あるいは空想上のモンスター扱いだ!!」
元々はインドの神話に出てくる神鳥だけどな!
「ガルーダが空想上のモンスター扱いって、ハヤトの一般常識が心配なんだけど……!」
「うるせぇ! それよりガルーダの弱点はないのか? ガルーダの特徴でも何でも良いから情報を寄こせ! 記憶喪失だけど一般常識が豊富なニア様よ!!」
「ぶー!! 記憶喪失を気にしているのに良くそんな事言えるわね!!」
「俺の無知をなじったお前が言うんじゃねぇ! いいからさっさと情報を提供しやがれ!!」
俺は鬼気迫る表情でニアの顔を見詰めた。
ガルーダが空からスイカボムを落とす所業――『空爆』が続いている現状に、俺の心の余裕は一ミリも無いからだ。
「が、ガルーダの弱点なんて無いわよ……! 強いて言えば移動するスピードが遅いぐらいだけど……ま、まさか空を飛ぶ相手と戦うつもりなの!? 翅を持たないハヤトがどうやって攻撃するつもりなのよッ!!」
「空飛ぶガルーダとガチンコするつもりはサラサラねぇよ!! ただ弱点とかあれば勝てるかな~と、一グラムの期待はあるけどさ……」
「無理無理、ここは大人しく逃げた方が身の為よ!! 第一弱点があったとしても、どうやって攻撃するつもりなのよ!!」
「……ニアが頑張って俺をガルーダの元に運ぶのはどうだ?」
「本気で言ってるならハヤトの耳を噛み千切るわよ…………冗談だよね? いくら魔法が使える妖精の私だからって、流石にハヤトを持ち上げるのは無理よ!!」
やる前に諦めるな――なんて事を言ったらグーで殴られそうだな……ってか、十メートルを優に超えるガルーダを倒すのは無理があるか……。
四十近い群れを殲滅するのも不可能に近いだろう……はてさて、どうしたものか……。
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