五話 最弱モンスター

『そろそろ移動を開始しませんか?』

「ああ、分かってる」


 いつまでも自販機(擬態モンスター)の前に立つのは時間の無駄である。

 それは理解しているのだが、今から何をすればいいのか迷っているのだ。


 Lv上げ? それとも物資の確保? もしくは安全優先で自宅に帰るか? すぐ近くにあるし……。


『癇癪玉の影響を無駄にしない方がいいと思います』


 俺の迷い――思念を読み取った神使は、遠まわしに『外で活動しろ』と念話を飛ばしてきた。


 ですよねー。なら物資の確保をメインとして、弱そうなモンスターを狩る――そんな活動プランで行こうと思うんだけど。


『妥当なプランだと思います。行先はどちらに?』


 自宅を出て右に500メートルぐらい歩くと、幹線道路と合流する。その向かい側に24時間営業のコンビニがあるんだ――と神使に目的地の詳細を伝えた。


『ではそこに向かいましょう。それと道中の安全確保を忘れないようにしてください』

「勿論だ……死にたくないし……それと――」


 目的地を定めた俺は、自販機の前で姿勢を正す。


「ごめん――助けられなくて!」


 イケメン勇者を助けられなかった事に深く謝罪した俺は、この場を去るのであった。


 ****************************


「急に人が少なくなったな……。モンスターにやられてしまったのか?」


 目的地のコンビニまであと200メートルの所で、俺は周囲を見渡しながら歩いている。

 その途中に落ちている物体といえば、血だまりに浮かぶ死体と石になったスマホが目立った。

 また、ボロボロの自動車が不規則に放置されている。それもブロック塀や、電柱に衝突した車。交差点内で複雑骨折したかのように滅茶苦茶な形で停止している車である。


 次に路上から建築物に目を移した。

 周囲の建築物は二階建ての一戸建てが立ち並ぶ――つまりここは住宅街である。

 そんな住宅街は不気味なほど静寂に包まれているのだ。


「誰もいない訳じゃないよな……。カーテン、揺れてるし……って、なんだアレ?」


 周囲に立ち並ぶ一戸建てを見渡しながら歩いていた俺は、電柱の足元に生えている物体に疑問を浮かべたのである。


 キノコ……だよな、アレは……?

 ちょっとデカい――三十センチぐらいかな……あと薄い青色……うん、少し変わった巨大キノコに見えるな。

 けど、なんでこんな所に生えてるんだろう……しかも、一か所だけではない。あっちにも、こっちにも……少なくとも二十以上はあるぞ。


『キノコ系のモンスターです。名称は『ヒトカミダケ』と呼ばれます』


 疑問を浮かべる俺の脳内に、神使の念話を受信した。


「モンスター……なのかよ……。危険な奴か?」


 先ほどの自販機(擬態モンスター)の件を思い出した俺は、何が起きても対応可能出来るように、金槌を強く握りしめた。


『危険度は最低レベルです。最弱モンスターと呼んでも差し支えありません』

「マジで……! なら積極的に退治した方がよかったりするのか?」

『経験値は最低値ではありますが、今のマスターにはピッタリの相手とも言えるでしょう』

「よしッ!! あ、一応聞くけど注意点とかある?」


 最弱モンスターとは言え、安全第一を心がける!

 それがこの世界を生き残る最善の手段だと思う以上、どんな些細な内容でも神使と相談した方がいいしな!


『特にありません。踏みつけるだけで退治できますし、ヒトカミダケの攻撃は甘噛みレベルです』

「分かった、早速退治してくる!」


 そう言いながら近くのヒトカミダケに近づく俺。すると――


『ピー、ピー……』


 接近者に気づいたのか、可愛らしい声で鳴き始めるヒトカミダケ。


「うぉっ……!? 泣き声だけじゃなくて目や、口が現れたぞ……! あっでも、ユルキャラぽくて全然怖くねぇし……ヤるか」


 そう言い終ると同時にヒトカミダケを足で潰そうとする。


『――ピギュッ!!』


 断末魔までも可愛らしい声を上げるヒトカミダケ。その死骸を確認しようと足を上げる。


「あれ……? 死骸がないんだけど……」


 おかしいな、手応えを感じたんだけど……あの、踏みつける瞬間に『ぷにゅっ』っていう柔らかい感触を感じた……よな……?


 初戦闘を終えた感想を思い浮かべていると、『ピコーン』と電子音が聞こえてきた。


『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』


 少なっ……。

 まぁ最弱モンスターだし、当然と言えば当然なんだけどさ……。

 ああ、あとモンスターの死骸はどうなるんだ?


『モンスターは死骸を残しません。残すのはドロップアイテムのみです』


 ゲームかよ……!

 死骸を残さない、ドロップアイテムが出る、まんまゲームじゃねーか!

 異世界から浸食を受けているからって、ゲーム感を出さなくてもいいんだぞ!


『私にクレームをつけないでください。それとクエストをクリアし、新たなクエストを獲得しました。確認しますか?』


 頼む――そう短く念じると、スマホの画面が『クエスト』のページが表示された。


『クエスト』

 クエスト受注一覧

 特技スキル『盗む』を成功させる 報酬 盗人の手袋

 特技スキル『鍵開け』を使用する 報酬 煙玉

 職業Lvを上げてみよう 報酬 コンバットナイフ

 Lvを上げてみよう 報酬 マジックポーション

 仲間を作ろう 報酬 聖なるロウソク

 ヒトカミダケを10体倒そう 報酬 100GP←NEW


 クエスト完了一覧

 モンスターを倒してみよう 報酬 スタミナポーション←NEW


 ヒトカミダケを10体か……丁度そこに10以上あるし、さっさと狩るか。あと報酬は後でまとめて受け取ろう――そう思った俺は、ヒトカミダケを乱獲(捕獲ではなく討伐だけど)しようとする。


『――ピギュッ!!』

『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』


『――ピギュッ!!』

『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』


『――ピギュッ!!』

『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』


『――ピギュッ!!』

『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』

 ……

 …………


 可愛らしい断末魔が最初のと合わせて15回聞こえてきた瞬間。某国民的RPGのレベルアップ音に似た音――『テレッテッテー』が聞こえてきた。


 突っ込まねぇぞ……!

 もはやこれはRPGだ――なんて何度も突っ込まねぇぞ、俺は……!


『マスターの思考を完全に把握する私から見れば、突っ込んでいるようなものですが……言わぬが花ですか?』


 うるせぇな……。レベルアップについて説明しろ。


『ではステータスを確認してください』


『メイン』

 名前 黒崎颯人

 Lv 2←NEW

 性別 男

 年齢 17

 職業 シーフ Lv1

 装備 武器 親父の金槌(物理攻撃力 5)

    防具 桜木高等学校の制服(物理防御力 5)

    特殊 無し

 状態異常 無し

 GP 15


「おっ、Lvが2になってる……基本値はどうなってるんだ?」


『基本値』

 スタミナ 27/27(+2)←NEW

 マジック 15/15(+1)←NEW

 物理攻撃力 13(+1)←NEW

 魔法攻撃力 11

 物理防御力 10(+1)←NEW

 魔法防御力 7

 速さ 17(+2)←NEW

 器用 15(+1)←NEW

 幸運 21

 成長タイプ 速さ

 次のレベルまであと 27


「よし! 増えてる!」


 レベルアップの恩恵に思わずガッツポーズする俺。そんな俺の目の前に浮かぶスマホは『ついでにクエストも確認しますか?』とメッセージが表示された。


「よろしく」


『クエスト』

 クエスト受注一覧

 特技スキル『盗む』を成功させる 報酬 盗人の手袋

 特技スキル『鍵開け』を使用する 報酬 煙玉

 職業Lvを上げてみよう 報酬 コンバットナイフ

 仲間を作ろう 報酬 聖なるロウソク

 ヒトカミダケを100体倒そう 報酬 癒しのベル←NEW

 Lv5以上達成 報酬 トリニダード・スコーピオン←NEW


 クエスト完了一覧

 モンスターを倒してみよう 報酬 スタミナポーション

 ヒトカミダケを10体倒そう 報酬 100GP←NEW

 Lvを上げよう 報酬 マジックポーション←NEW


 増えてるな……けど、ヒトカミダケの殲滅を最優先だ。もっともあと5体ぐらいだけど――そう思いながら次のターゲットに近づく。


『――ピギュッ!!』

『経験値を1獲得しました。GPを1獲得しました』


 柔らかい物体を踏み抜いた瞬間、戦闘結果が脳内に響く。そして次のターゲットの所に向かうのだが――


「うん……?」


 つい先ほどのヒトカミダケがいた位置に、何か光る物が落ちていたのを発見する俺。


 ひょっとしてドロップアイテムとかいうやつか……? そう思いながらスマホに目を向けた。


『その通りです。害はありませんので、そのまま回収してください』

「そうか……なら、回収するぞ」


 そう言いながら光る物体を鷲掴みする。すると光る物体が徐々に変化し始めた。


「……キノコ……だよな……?」

『はい。キノコです』


 ヒトカミダケをそのまま10センチぐらいに縮んだキノコ。それがヒトカミダケのドロップアイテムであった。


「……えっと……なにか効果があるのか?」


 どこからどう見ても小さいヒトカミダケに見えた。それも目と口がないだけの薄い青色のキノコであり、スーパーに売っていても『少し珍しい』ぐらいの感想が関の山だった。

 とはいえ、異界浸食によって現れたモンスターが落とすドロップアイテムだ。

 そんな異常ともいえる手段で手に入れたキノコなら、普通じゃない『効果』を秘められているはず――そう俺は思ったのだが、


『いえ、何の力もないただのキノコです』

「……マジで?」

『肯定。強いて言えば美味しいキノコらしいです。炭火焼が絶品であり、塩を振っただけのシンプルな料理をお勧めいたします』


 えーと、つまり。このドロップアイテムは『食品』のカテゴリに入る何の特徴もないただの『キノコ』なのかよ……期待して損したぜ。


『美味しい、が抜けています』


 変わらねーよ、ばーか。

 でも物資を手に入る手段が限られている現状。ポイ捨てするのは馬鹿らしいから、鞄に入れておくか。貴重な食料品だし。


「――さて、狩りの続きをするか」


 そう言いながら次のターゲットに移り、目に見えてる全てのカミツキダケを殲滅したのは数分後であった。

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