一話 異変
八月一日の午前十時二十分。高校二年生である俺――
昼間から深夜にかけて、テレビゲーム、ネットサーフィン、漫画、DVD鑑賞を心から堪能する。
そして深夜から昼間まで惰眠を貪るという不健康極まりない生活を続けていた。
現に午前十時を過ぎたのに寝間着の姿でベッドに横たわっているのである。
「ふぁ~。今日は何するかな……?」
眠そうな顔で独り口を呟きながらスマホを起動する。
『メイン』
名前 黒崎颯人
Lv 1
性別 男
年齢 17
職業 決めてください
装備 武器 無し
防具 寝間着(物理防御力 1)
特殊 無し
状態異常 無し
「ファ!?」
スマホの待ち受け画面を見た俺は、思わず変な声を上げてしまった。
「えっ……! なに、コレ? ゲームのステータスか? なんか間違えてアプリをインストールしたのか?」
スマホの異常事態に若干興奮しながら、スマホに表示されてる内容をよく確認する。
おースゲェ。俺の全体像がいっぱい映し出されてる――ん、左上に『次のページ』がどうとか書いてあるな。
『基本値』
スタミナ 25/25
マジック 14/14
物理攻撃力 12
魔法攻撃力 11
物理防御力 9
魔法防御力 7
速さ 15
器用 14
幸運 21
成長タイプ 速さ
次のレベルまであと 15
うん、ゲームだな。
それもRPGのステータス画面だ。
スタミナは生命力で、マジックは魔法を使う時に必要な数値かな?
それ以外の項目はなんとなくわかるけど、器用とか、幸運はどんな意味を持っているのだろう?
そう思っていたら――
『器用』は武器の扱いや、身のこなしに影響します。また細かい動作、道具の作成に影響を与えます。
なので作成系のスキルを覚えたら、器用の数値を注視することをお勧めします。
『幸運』は運にかかわる結果に影響します。またモンスターの遭遇率と、ドロップアイテムのレア度に影響を与えます。ただし幸運は日々変わり続けています。
なので幸運が高い日に活動することをお勧めします。
「うわ、俺が疑問に思っていた内容が勝手に表示しやがった……!!」
俺の思念にスマホが答えた事に驚き、これは『ただのスマホゲームじゃない』と僅かにでも思い浮かべた俺は、ベッドに腰を掛けるように体勢を整えた。
偶然か?
なら速さはどうなんだ――と、スマホに向かって念じてみると――
『速さ』は文字通り、自分自身の速さになります。数値が高いと敵の攻撃を回避しやすくなります。また攻撃する回数、先制攻撃の成功率が増えます。
なので『速さ』が高い方は物陰に隠れながら移動し、モンスターの背後を狙って行動することをお勧めします。
特にマスターは。
「了解……てか、生きてんの? ねぇ、このスマホ? それともアプリ? つーかRPG好きな俺はどうでもいいけど、ゲームをやらない人にとっては軽くホラーなんだけど!」
『ホラーで申し訳ありませんでした』と、表示するスマホ。
「なんなのコレ? AIにしては良く出来過ぎだし、思念で答えるなんて技術はあり得ないし……夢かな?」
『夢ではありません。現実です』
「…………マジで?」
『マジです』
「ぐふっ……」
スマホの画面いっぱいに『マジです』とデカく表示されているのを見た俺は、見えないアッパーを食らったような衝撃を受けた。
うーん、なにがどうなってんだ? この状況は? スマホを起動したらRPGのようなステータス画面らしきものが表示された上に、俺と受け応えするアプリ……ホント、どういう状況だよ!
『現時点ではマスターの疑問を解決する時間はありません。それよりマスターのステータスをすべて把握した方が宜しいかと。それがマスターの生存確率が飛躍的に向上します』
どういう意味だ――と、スマホに向かって言葉を発する前に、スマホの画面が先ほどの項目――スタミナやら、マジックなどの数値が立ち並ぶ画面に戻った。
……うん?
左上の『次のページ』の項目が光ってる……けど、さっきの『生存確率』って何の事だろう……?
まぁいい、どうせなら最後まで付き合ってやるか。
そう思った俺は、左上の『次のページ』にタップすると――
『呪文』
無し
「今使える呪文一覧かな……?」
攻撃魔法とか回復魔法などを覚えた時、ここのページに記載されるのだろうか?
もっともLv1である俺にとってはまだ縁のない話だ。なので『次のページ』にタップしよう。
『特技』
無し
前のページと同じ仕組みかな? もしそうならここに覚えた特技が表示されるのだろう。
でも今の俺にとっては必要ないみたいだから、『次のページ』に移動しよう。
『特殊』
火事場の馬鹿力 Lv1
お、一つだけある……!
でも火事場の馬鹿力ってどんな能力を持ってるんだ? 辞書の通りならステータス強化系だと思うんだけど……。
あとレア度があるとしたら、いくつぐらいなんだろう? つーかレア度なんて要素あるのか?
『ありません』
「あ、そう……」
それでこのステータスの内容はこれで終わりなのか? 左上の次のページが消えてるんだけど。
『基本ステータスはこれで終わりです。それと同時に新しい機能を拡張したので、確認してください』とメッセージが表示されると、一番最初の画面――『メイン』が映し出され、その左上に見慣れぬアイコンが光っている。
「まだ続くのかよ……はぁ」
左上のアイコンをタップする――すると『メイン』『能力値』『呪文』『特技』『特殊』『クエスト』が表示された。
あ、スッキリしてる……ん、クエストだと……?
クエストってあのクエストかな?
興味が出たので『クエスト』をタップしようとしたが、勝手に『クエスト』の画面が出る――って、俺の考えを先読みしやがった。別にいいけど、手間がかからないからさ。
『クエスト』
クエスト受注一覧
職業を決めよう 報酬 機能解放(自立行動)←NEW
クエスト完了一覧
ステータス画面確認 クリア 報酬 GP100←NEW
「GPってなんだ?」
『ガチャポイントの事です。報酬を受け取る場合は、タップするか念じてください』
そうか、なら報酬を受け取る――そう念じると『メイン』画面に戻される。
『メイン』
名前 黒崎颯人
Lv 1
性別 男
年齢 17
職業 決めてください
装備 武器 無し
防具 寝間着(物理防御力 1)
特殊 無し
状態異常 無し
GP 100←NEW
――と同時に『新たなクエストを獲得しました』と表示され、強制的に『クエスト』の画面に移動される。
『クエスト』
クエスト受注一覧
職業を決めよう 報酬 機能解放(自立行動)
ガチャを回してみよう 報酬 機能解放(念話)←NEW
クエスト完了一覧
無し
「ガチャポイントねぇ……流行のスマホゲーみたいだな」
『そのスマホゲーのガチャシステムだと思っていただいて間違いありません。詳しくは左上のアイコンの先に『ガチャ』が追加されているので、そちらで把握してくだ――っと、失礼。着信がありますが、どうしますか?』
「着信……? 誰だ?」
『マスターの母親からです』
俺の母さんからだと……?
何の用だろう? 父さんと一緒に岩手県に遊びに行ったはずなんだけど……ああ、もしかして土産の事かな?
もしそうなら気が早すぎだろ。朝の五時に家を出るとか言ってたから、今頃は福島県のサービスエリアに辿り着いてんじゃね?
仮に土産の事なら肉とか魚介類を希望するけど、どうせ大した用事ではないんだろうな。
けど無視するのはあり得ないので、大人しく電話に出るとするか。
『マスターのモノローグ長すぎますよ』
「うるせぇ! つーか思考を読むな!」
『それは不可能です。仕様ですので諦めてください。それと繋げますか?』
ぐッ……色々と文句を言いたいけど、取りあえず母さんとの用事を済ませよう。
覚えてろよ、アプリめ!!
「繋げろ。それと会話の邪魔だけはすんなよ!」
『了解しました……どうぞ』
「もしもし、どうかした? 土産なら岩手の最高級牛肉『前沢牛』を希望いたします」
『馬鹿言ってんじゃないわよ、颯人!!』
「うぐぉ……み、耳が……鼓膜が破れる……」
100デジベルを余裕に超える衝撃に、思わずスマホを落としそうになる。
お茶目なジョークのつもりだったんだけど……前沢牛は高望みしすぎたか?
あれ、結構高いんだよなぁ。
「あ~ごめん、ごめん。昨日の夜に放送していた番組『岩手の名産品を食って食いまくる一泊二日の旅~』を思い出して、ついおねだりしちゃった、テヘ☆」
『いい加減にしなさい!! 土産の話どころじゃないわよ!! テレビ!! テレビを見なさい!! 大変なことが起きてる――え、なに? 静かに……ええ、それもそうね。私の声で颯人に迷惑がかかるのは不味いわね』
話の途中に父さんらしき声が聞こえたと思ったら、母さんの声が急に低くなった。それもヒソヒソと内緒話をするかのように。
「えーと、どういう意味? 俺の迷惑がどうとかって、今は家にいるから誰にも迷惑がかからないぞ」
『家にいるのね! じゃない、家にいるの? もしそうなら間違っても外に出ないで! それと出来るだけ声を抑えて! 私も声を出来るだけ抑えるから』
「……よく分からんが、声を抑えとく。それで何があったんだ?」
『一言でいえば大事件……ううん、ある意味『戦争』以上の危機的状況――が起きているの。それも颯人がいる千葉――県。それと首都圏全域に戒厳令が発――令された――の!』
母さんの声が段々と遠くなっていく。通話回線に何か影響があったのだろうか?
「戒厳令ってヤバくね? 確か非常事態が起きた場合、軍隊に統治権を委ねる――ってやつだよな?」
『そうよ! その戒厳――令が――首都圏全域に――発令され――たの!!』
「なんで?」
『外が――――――――じゃない! ――――――出ないで! 外には――――がいる――ら!!』
「ん? なんて言ったんだ? うまく聞き取れない」
外がどうとか、言ってるけど何を伝えようとしてるんだ――そう思った瞬間。
キャー!!
絹を裂くような悲鳴が家の外から聞こえて来た。
「えっ……!?」
『――ッッ!?』
何が起きたんだろう――そう思った俺はスマホから家の外に意識を向ける。もっと正確に言えばベッドのすぐ近くにあるカーテンに覆われた窓である。
『ま、待って颯人! これが最後の通話に――知れないから、私の言う――――して!! 家の外は――――――だから!! テレビ――見て! テレビを――のよ!! 分かっ――ブツ……。ツー、ツー』
「え、なに……もしもし! おーい……って、切れてるし……」
カーテンに覆われた窓の前に立ちながら声を聞いていたが、通話を強制終了させられてしまった。
母さんは俺に何を伝えようとしたんだろう?
戒厳令が発令された事についてだろうか? にしても何が原因で戒厳令が発令されたのかはノイズが酷くて聞けなかった。
それでも母さんは『テレビを見ろ』と俺に伝えようとした事は理解できた。
ならばテレビを見た方がいい――んだけど、その前に外を確認してからにするか。先ほどの悲鳴が気になるし。
「外に出るな、と言ってたけど見るなとは言ってない――ッッ!?」
母さんの警告をトンチじみた言い訳を呟きながらカーテンを開けた俺は、驚愕と言った表情で固まってしまったのである。
何を見たのか――だと、それは醜悪の顔つきをした緑の子供が成人の女性を襲っているのだ。
その緑の子供は腰にボロボロの布を巻いただけ、と言った貧弱な格好である。それと木製らしきの棍棒を片手に持つ。それはRPGに出てくる雑魚モンスターの『ゴブリン』が現実の世界に現れたと思うほどである。
そんな『ゴブリン』と呼ぶに相応しい生物が、道路に横たわる女性を棍棒で殴りつけているのだ。それも何度も、何度もである。
その光景は確実に息の根を止める、と言うより血が飛び散る事を愉悦と感じている様に見えた。
「え、映画の撮影……じゃ、ない……よな――ッ!?」
震える声で現実逃避に等しい言葉を口にしたら、ゴブリンが俺がいる場所に顔を向けようとする。
見つかると殺されるかもしれない――そう直感した俺は、カーテンを最速で閉めると同時に姿勢を低くした。
見つかったか? それともセーフか?
仮にアウトだとしたらゴブリンはどんな行動を起こす?
家に押し入ってくるか? それとも仲間を呼び寄せる――ってか、仲間がいるのか? それとも単独?
もし家に攻めてくるなら武器を用意しなければ!
包丁でも、金槌でも、なにか武器になる物ッ!!
そう考えた俺は、二階にある自室から一階にあるキッチンに足音を立てないように移動した。それも可能な限り素早くかつ、採光を目的とした窓から隠れるように。
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