第2話 「優しき巡り会い」
暗闇を一人で歩く杏子には何もなかった。
もう何日も食べていないしお金も持っていない
ただその容姿には妖しい光を放つ魅力がある・・・
年の頃は16か17歳ぐらいか?
薄汚れた身なりをしているのだがそんな感じがしなかった。
やがて1台の車が止まり窓を開けた男が声を掛けた!
「どうしたんだい?こんな夜中に家出でもして来たのか!?」
彼女は立ち止まり男の方を向くと言った。
「私には行く所が無いの、お父さんもお母さんも死んじゃった」
その緑色の瞳には涙が浮かんでいる・・・
素直な返答には憐れみを乞う様子もなく男の心に響いた。
「じゃあ家に来るといい!さあ乗って」
男は車から降りると助手席のドアを開け優しく言った
彼女は男の顔を一瞬、見たが安心した様子で車に乗り込んだ。
この男はただ親切心でこの娘を乗せた様だがあの一瞬で人の心の色を見抜いてしまったのか?
ジルは彼女の中に潜む邪悪なモノに気付いていたが彼女にそんな素振りや気配が全く見えないのは知らないからなのか?
男は20代半ばぐらいだろう、運転しながら助手席の彼女に色々と話し掛ける。
彼女は彼の質問に素直に答えながら楽しそうに話している様に聴こえるがその暗き表情が変わることは無かった!
車が繁華街に入ると街明かりで彼女の姿が彼にも見え始めると
「服が随分と汚れてるね!? 今夜は開いてる店はないから君さえ良ければ新しい服を買いに行こうか!」
そんな彼の言葉に彼女は運転する彼を見て「ありがとう・・・」と言った。
あれほど人から嫌われ続けて暮らして来たのだ!
簡単に人を信じるられるはずもあるまいが彼の思いやりが伺える言葉に微かではあるが初めて笑顔を見せた。
ジルはホッとした・・・
これが人間が言っていた運命というモノなのか?
先のことはわからないが偶然とはいえ良き相手に巡り会えて暫くは彼女も安心して暮らせるだろう。
街中を過ぎて少し走った車は小さな1軒屋の前で止まった
彼女を連れて玄関のドアを開けると「ただいま!」と声を掛け中に入って行く・・・彼女は素直に後を着いて行く。
居間には老婆が笑顔で「お風呂沸いてるよ」と迎い入れる
彼女の姿に気付いた老婆は彼に尋ねた・・・
「こんな綺麗なお嬢さんをどこから連れて来たんだい?」
彼はこれまでの経緯を話し彼女はこれまでの生活を2人に詳しく話して聴かせた・・・あることを除いて。
老婆と彼は時折、涙を拭きながら彼女の話を聴くとタンスから浴衣とタオルを出して来ると彼女に渡し言った。
「さあ遠慮なく先にお入り!ゆっくり温まって来るんだよ」
その言葉に彼女は涙で頷いた。
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