- 次なる物語へのプロローグ -
新豊鐵/貨物船
第1話 「忌わしき血」
お母さん大丈夫!?
杏子は母の背中をさすりながら心配そうな声で言った。
母はすんな彼女を心配させまいと笑顔を作り
「心配掛けて済まないねぇ・・・だけど大丈夫だからね」
そう言った後にまた咳き込んだ。
外は冷たい雪が降りしきる真冬だというのにこの部屋には暖を取る物も無く壁の隙間から冷たい風が吹き込んでいた。
ジルはこの杏子という少女に興味を抱き憑依していたのだが彼女の暮らしはあまりにも貧しく食べる物にさえ困窮し人間に憑依したジルにさえ大変さがわかる暮らしだった。
ジルの住む星は食糧難により争い奪い合いを繰り返し滅亡に至ってしまったのだが彼女は食べる物さえ無いのに争うことも奪うこともなく、残り少ない食べ物でさえ母親に与え自分は何一つ口にしてはいなかった。
人間を不思議な生き物だと考えていたジルは善と悪をひたすら貫き懸命に生きる彼女に愛着を持ったのだ。
これだけの困難な状況にありながら何故、奪わないのか?
このままでは2人とも死んでしまうのは明らかではないか!
人間というものは何を考えているのだ。
部屋の奥には小さな形ばかりの位牌が置いてあり写真立てには緑色の瞳をした男性の写真・・・彼女の父親であろう?
姿が見えないと言うことは死んでから時が経っているのだと思われる。
この家族に一体、何が起こったのだ!?
彼女を見ると付近の住民たちは明らかに避けている!
避けると言うより怖れていると言った方がこの場合正しいのかも知れないが逆に怖れているのは彼女達の方で部屋の片隅で震えていた。
争いを好む人間と好まぬ人間・・・この母娘は誰からも助けを受けることなく誰かが勝手に始めた差別、或いは誤解によりこんな生活に耐えながら暮らしている。
この母娘はこれで満足なのか?
いや、満足であろうはずが無い・・・しかし誰かを呪うこともなく母親を見捨てることもせず今夜も寒さに震えている。
「ゴホッゴホッゴホッ!」
母親の咳は激しさを増し息も絶え絶えに苦しんでいた
彼女が何かを懸命に話しかけるが死が迫りつつある母親に彼女の声はもう聴こえていない様だった。
やがて母親の体から霊魂が抜け彼女の母は体を苦しげに硬直させたまま呼吸を止めた・・・
遺体となった母親にすがり泣き崩れる彼女に母親は手を差し出し大粒の涙を流しながら何度も何度も感謝の言葉を繰り返すが彼女にその声はもう聴こえはしなかった。
その夜を泣き明かした彼女は少し離れた丘の上に母親の遺体を埋葬した・・・
この作業が彼女の最後に残った力だったのであろう!
彼女は小さく盛り上げた土の上に石を乗せると力尽きて倒れ意識を失った。
この寒さと極度の疲労、栄養不足に愛する者の死・・・
彼女が起き上がり生きられる可能性のある物は何も無かった!
しかし彼女の体に流れる血は彼女の死を受け入れない・・・
次の日の朝、彼女は誰も知らぬ街へと旅立った。
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