こっちにおいでよ!

卯野ましろ

こっちにおいでよ!

 わたしの好きな男の子は人気者です。優しくて、明るくて、頭が良くて、スポーツ万能で……すごい人です。誰よりも、とってもかっこいいです。

 わたしは、そんな彼と同じクラスです。

 なので……。

 わたしは毎日、彼の姿を見ることができます。今も、みんなに囲まれキラキラ輝く彼を見ています。

 遠くから。

 あ、自分の席からは離れています。

 それでも、わたしは幸せです。

 ……さて、そろそろ席に着こう。




 自分で言ってしまいますが、僕は人気者です。特別なことをしているつもりではありませんが、なかなか顔が良いらしいです。あと大体のことは器用にできます。だから、いつも人が集まってきてしまうということです。今だって僕は、ほとんどのクラスメートに囲まれています。

 そんな僕が今、一番気になっているのは……。

 いつもいつも、みんなより一歩下がって……いや十歩か? いやいや百歩? ……まあ、とにかく他の人らよりも相当離れたところで僕を見つめている、あの子です!

 何かで集まるときは大抵、隅っこや後ろの方にいる遠慮がちな……例の女の子!

 何だよ、あの曇りなきキラキラきゅるるんまなこはっ!

 小動物か!

 ああっ、浄化されるっ……。

 こんなにもかわいいというのに……。一体何なんだ、あの奥ゆかしさ!

 天使かっ!

 膝が隠れてしまうほどの長めのスカート、美しい黒髪、化粧っ気がなくともきれいなお顔……。

 史上最強の大和撫子ではないかっ!

 そんなにもステキなのに、なぜ男が一人も寄ってこないのか……不思議だ。まあライバルがゼロなのは僕にとって、ありがたいことではあるが。


「あっ……!」

「ん? どうしたの?」

「何だ?」


 また、いつものUターン現象が起ころうとしている。思わず発声してしまった僕に周囲は驚いている。

 が、そんなことに構わず僕は進んだ。

 今日こそは言うんだ。

 あの子に伝えるんだ。


「待ってよ!」

「……へ?」


 ……やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 あの子がっ!

 奇跡的に振り向いてくれたぞっ!


「今、彼に呼ばれた気がしたけど……。わたしじゃないよね、うん」


 とか、いらないことを思って自分の席に戻ってしまうパターンにならなかった!


「もう遠くで僕を見るのは、やめてくれよ」

「えっ?」

「頼むから、もっと近くで僕を見て欲しい……。いや、ずっと隣にいてくれ!」

「ちょっ……それって、どういう……」


 彼女の顔は真っ赤。

 この子、やっぱり僕のことを……!

 ……よし、言うぞ。


「それはね」

「……はい……」

「僕が、君のことを……」




 今、わたしは好きな人を見ています。彼は今日も輝いています。


「お前のおかげでオレたち勝てたんだぜ!」

「ありがとうな! 助かったよ!」


 部活の練習試合が終わった直後、多くの仲間に囲まれています。眩しいです。本当にドキドキします。

 どこから見ても、とってもステキ……。


「だから! どうして君は、まだそんな遠くにいるんだ!」


 ……あ。

 またやっちゃった。


「えーと……」

「もうっ」


 スタスタスタ、と彼が近づいてきた。


「本当に君って子は……!」


 あっという間に、わたしの目の前には、彼。

 見つめ合う二人。

 自分がこんな状況になるなんて、あのころは全然考えられなかった。


「君は僕の恋人なんだから、もっとガツガツしてくれなきゃ困るよ! 」

「あ、あの……男同士の友情に、女のわたしは邪魔かなって……」

「何を言っているんだ! あれほど僕が一番隣にいて欲しいのは君だって、何回も伝えたのに……」

「ご、ごめんなさ……」

「でも、」


 そのとき、わたしの頭に優しく何かが乗せられた。パッと見上げた先には……。


「そんな君だから、僕は好きになったんだよね……」


 少し困り顔気味だけど、幸せそうなキラキラの彼がいた。


「あんたたち、空気読みなさいよっ!」

「ごめん……」


 わたしを思って女子たちが、彼の仲間に怒っている。


「み、みんな! そんな怒らないであげて! かわいそ……きゃっ」


 わたしは彼の二の腕に包まれた。

 顔は赤く染まっている。

 こういうの、まだ慣れないな……。


「あぁ~、そういうとこ本当に好きっ!」


 わたしも、そんなあなたが大好きです。

 ずっとずっと。

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