◇12月23日の相川さん。




 12月23日、月曜日。

 午後から降り出した雨。昇降口で傘を忘れて立ち尽くしていた青山くんに、私は勇気を出して傘に入っていかないかと言った。そして、相合傘で帰ることになって、私の家の前まで来て、まさかの展開。



「……えっと、お茶どうぞ」

「あ、ありがとう」



 青山くんに傘を貸していたら、買い物から帰ってきたお母さんがうちでお茶でも飲んでいきなさいって青山くんのこと無理に家に上げちゃった。

 せっかく私のこと送ってくれたんだから、それくらいしないとダメでしょって。それはそうかもだけど、展開が急すぎるのよ。心の準備ってものがあるんだから。



「ゴ、ゴメンね……お母さんったら無理に……」

「いや……」



 当のお母さんはお隣に用があるからってまた出掛けちゃったし。

 まぁ、変なこと話されても困るから良いんだけど。良いんだけど、良くないんだよね。凄く困るんだよね。



「……えっと」

「あの……お茶飲んだら帰るから」

「う、うん……」



 どうしよう。学校とかだったら普通に話しできるのに、自分の家だとなんか落ち着かなくて全然話が出来ない。二人きりだからなのかな。

 どうしよう。黙ったままじゃ感じ悪いよ。何か、何か話さないと。



「……あれ、相川?」

「え? あ、ああ……うん」



 青山くんが指をさして聞いたのは、リビングに飾ってあった家族写真。青山くんが見てるのは小学生のときのものだ。



「……可愛いな」

「え!?」

「え? あ、いや……その、小さい頃の相川ってなんか可愛いなって! ああでも今が可愛くないとかそういうんじゃなくて今も十分可愛いんだけど……いや、えっと、あの……」



 青山くんの顔がどんどん真っ赤になっていく。多分、私の顔も同じくらい赤いんだろう。

 二人の間に何とも言えない沈黙が流れる。互いの顔を見合わせたまま、何も喋れない。どうしよう。青山くんが私にこと可愛いって言った。どうしよう、どうしよう。泣きそうなくらい嬉しい。

 ゴクリ。息を呑む。青山くんの口が少し動いた。

 何か、言うのかな。そう思って、私も小さく息を呑む。


 その瞬間。玄関からお母さんの声がした。弾かれるように青山くんはお茶を飲み干して家を出ていった。




 青山くん、なんて言おうとしたんだろう。





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