◆12月23日の青山くん。





 12月23日、月曜日。

 俺は昇降口の前で突っ立ったまま動けずにいた。

 空からバケツの水を零したかのような雨が降っていて、傘を玄関に置いたまま忘れてきたせいで帰るに帰れない状況なのですよ。



「……青山くん、傘忘れたの?」

「相川……その、玄関に置き忘れてさ」

「そう、なんだ……」



 俺、バカな奴と思われた? だとしたら俺、このまま走って逃げますけど。



「良かったら、入ってく?」

「え」

「傘……私ので良ければ……」



 相合傘ってヤツですか。

 相川が傘を開いて、俺の方を見てる。ちょっと照れた顔が可愛いです。

 でも、いいんだろうか。結構恥ずかしいぞ。でも、人の厚意には応えるべきだよな。そうだよな。





「……」

「……」



 俺らは肩を並べ、腕が触れ合ったまま帰り道を歩く。

 こんなに近付くのか、相合傘ってヤツは。俺は相川の肩が濡れないように彼女の方へと傘を傾ける。

 傘を忘れたときは最悪だと思っていたけど、まさかこんなイベントが待っていたとは。雨が好きになりそうだよ。ありがとう雨。



「相川……」

「なに?」

「今日は、ありがとうな。助かった」

「ううん。私は別に……」

「……」

「……」



 言葉が続かない。雨の音がザーザーうるさくて、小さな声は簡単に掻き消されていく。



「……」

「え?」

「ううん、なんでもない」



 相川が何か言ったような気がして、聞き返してみた。何言ったんだろう。なんでもないってことは、やっぱり何か言ったんだよな?



「青山くんの家まで送ろうか?」

「いいよ、もう近いし」

「じゃあ傘貸すから」

「いいのか? ありがとう」



 俺は相川の家の前で彼女から傘を受け取った。

 また明日。そう言おうと思ったら、後ろに誰かが立っていた。




 イベント起きすぎです。





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