◆12月9日の青山くん。




 12月9日、月曜日。

 俺は浮かれ気分で登校した。教室に入って、いつものように相川の後ろを通って自分の席に着く。通り過ぎるときにちゃんと挨拶も交わした。

 ここまではいつも通りだ。ただ、今日はいつもと少し違う。



「あ、青山くん。これ、昨日約束した本……」

「ああ、ありがとう。相川はもう読んだのか?」

「うん、昨日全部」

「早いな。俺も早めに読んで返すから」

「いいよ、ゆっくりで」



 相川はそう言って自分の席に戻った。相川の席の周りには井塚と直木がいる。あの三人、あんなに仲良かったんだ。

 それにしても、嬉しいな。書店のカバーが掛けられた小説をカバンに仕舞っていると、悠季がこっちに来た。



「思ったより仲良いのな、お前ら」

「なんだよ、思ったよりって」

「あんまり会話してるとこ見ないから」

「……まぁ、去年はクラスも違ったからな」



 まぁ、他の子に比べれば接点は多くあったと思うけどな。一年のときも出席番号順になれば隣同士だったし。昨日のこともあって、中々に新密度は上がってるんじゃないだろうか。



「さっきの本、ラノベ?」

「おう。盲目の魔法使いシリーズの……」

「ああ、なんか名前は聞いたことあるような」

「面白いぞ」

「おれ、他にも読んでないのがあるから、また今度な」



 井塚に借りてる本が多いらしい。さすがは文学少女だな。



「おっす」

「芦原。今日はちょっと遅かったな」



 眠そうな顔をした芦原が俺の後ろの席に着いた。いつも早いのに珍しいな。



「ちょっと寝坊した。寒いと布団から出にくいよな……」

「あー、わかる。俺もギリギリまで起きねーもん」

「英司、寒いの苦手だもんな」

「誰だって寒いのはイヤだろ」

「俺は結構平気」



 そうだった。コイツはこの寒い中でも平然としてるんだよ。真冬でも手が暖かいんだよ。なんかズルい。小学生のときも、低学年のときはこの時期でも薄着で遊んでたくらいだからな。



「リアルに短パン小僧だったもんな、お前」

「その言い方はやめろ」

「そういうガキって本当にいるんだな」

「やめてくれ……さすがにもう寒いよ。マフラーとか欲しいよ」

「そう言えば欲しがってたもんな」



 まぁ、ぶっちゃけ有っても無くても平気なんだろうな。多少は寒いんだろうけど、コイツはきっと風邪引いたりしないんだろうな。

 羨ましい奴め。俺は先月くらいから寒くて仕方ないぞ。





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