◇12月8日の相川さん。
12月8日、日曜日。
なんでこうなったのか。私は今、駅の中にあるファーストフード店で青山くんとカウンターに並んで座ってる。
今日は好きな作家さんの新刊が発売されるから本屋に買いに来たんだけど、まさかそこで青山くんに会うなんて思わなかった。しかも、その作家さんのこと青山くんも好きだったみたいで、私がその新刊を貸そうかって言ったら、ここでご飯を奢ってくれるって言ってくれて、今に至るんです。
今日、この時間に本屋に来て良かった。本当に良かった。
「へぇ、じゃあ相川も三毛猫の方から知ったのか」
「うん。魔法使いシリーズはあれから読まないとだもんね」
「だよな。俺、あれ読んで他のも一気に買ったからね」
それにしても、青山くんとこんなに話が出来るなんて嬉しいな。盲目の魔法使いシリーズは、私が中学に入ったくらいに見つけたんだけど、それから凄いハマって、今でも新刊が出ると速攻買いに来るくらい。
でも、自分が好きなものを青山くんも好きだったなんて。それだけで物凄く嬉しい。
「挿絵もいいよな、ラノベのイラストってどれも似たり寄ったりで好きじゃなかったんだけどさ」
「うん。猫の絵とかも可愛いよね。私、この絵師さんの画集買っちゃったよ」
「それ、俺も持ってるよ。ちょっと高かったけど、三千円も出した甲斐があったよな」
「来年、また出るんだってね」
「そうそう。それも買いたいんだよな。来年なら俺も高校生だし、バイトとか出来れば余裕だろうし」
青山くん、楽しそうに話してる。
私、もうこの笑顔見れただけで満足かも。これだけで当分は幸せな気持ちでいられる気がする。もう最高です。
話をしていると、テーブルの上に置いていた青山くんの携帯が震えた。それを持ち上げると、付いていたストラップが落ちて床に転がった。
これ、魔法使いシリーズの初版限定に付いてきた黒猫のストラップだ。いいな、私これ買えなかったんだよね。
「はい、青山くん」
「ああ、悪い。もう紐がボロくなっちゃっててさ……」
「みたいだね。いいなぁ、私、初版買いそびれちゃったんだよね」
「そうなんだ? これで良ければあげようか?」
「え?」
「って、こんなのあげるのは失礼か。悪い」
「ううん、そんなことないよ!」
思わず食付いちゃった。変に思われないかな。
そう思っていたら、青山くんが私の掌に紐の切れたストラップを乗せてくれた。あげるって、そう言って優しく微笑んでくれた。
どうしよう。泣きそうなくらい嬉しい。
ストラップのお礼、何か出来ないかな。
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