◇12月7日の相川さん。




 12月7日、土曜日。

 今日、私はまた莉奈ちゃんの家にお邪魔している。昨日の帰り際、莉奈ちゃんが遊びに来るように誘ってくれたのだ。

 どうやら今日はお兄さんも出かけていないらしく、芦原君もお友達と出掛ける予定があるから暇なんだそうだ。だから私は舞ちゃんも呼んで、今日は三人で女子会です。



「私まで来て良かったの? その、直木さんと私、話したことなかったのに」

「いいわよ、別に。それを言うなら、相川と私だってついこの間までロクな話したことなかったし」

「そうだよね。一昨日、駅で会ったときが初めてだよね。ちゃんと話をしたのって」

「なんか変な感じね。でも、直木さんは目立つからよく知ってたわ」

「兄貴のことでしょ、どうせ」



 莉奈ちゃんは少し呆れるような笑みを零し、テーブルに置かれたポッキーを一口かじった。



「ごめん、気を悪くした?」

「いいのよ、本当のことだし。でも、私はもうブラコンじゃないわよ」

「そうなの?」

「ええ。前ほど兄貴に依存もしてないし、澪姉……兄貴の彼女とも仲良いのよ?」



 それは駅で会ったときに分かった。莉奈ちゃん、明らかに澪さんに懐いていたもの。



「直木さんって……」

「名前でいいわよ。直木さんじゃ堅苦しいわ。私も舞って呼ぶから」

「そう? じゃあ、莉奈で」



 あっという間に二人は仲良くなったみたい。二人は話が合うみたいで、楽しそうに会話に花を咲かせてる。

 良かった、舞ちゃんを呼んで。莉奈ちゃん、今まで芦原君以外と話をしてるのって見たことなかったし、友達とか作ろうとしなかったって芦原君も言っていたのよね。

 最近は声を掛けられても無視してばっかりだったクラスの子とも話をするようになった。きっと、莉奈ちゃんの中で何かが変わったんだろうな。



「そういえば、汐里。あんた、クリスマスのプレゼント買ってたけど誰にあげるの?」

「え!?」

「青山くんにでしょ?」

「え!?」



 私、舞ちゃんに言ったっけ?



「だって汐里、一年の時から青山くんのこと見てたじゃない」

「そ、そう……?」

「へぇ、青山ねぇ。あれのどこがいいの?」

「え、ええ!?」



 急に話の矛先が私に変わってしまった。

 こういうの苦手なんだってば。私って押しに弱いタイプみたいで、こう詰め寄られると押し負けちゃうんだよね。



「で、どうなの?」

「それは、その……カッコいいじゃない……」

「それだけ? それだけだったら他にもいるじゃない」

「そ、それだけじゃないよ。優しいし、気も利くし……」



 これ以上は私の心臓が保たない。私は話をそらすために、莉奈ちゃんに芦原君のことを訊くことにした。



「り、莉奈ちゃんはどうなの?」

「は?」

「芦原君とはどういう関係なの? 付き合ってる訳じゃないって芦原君は言ってたけど」

「そうね。付き合ってはないわね。ま、時間の問題だけど」

「え?」

「……向こうから告白されてるのよ。とりあえず、返事は保留にしてるけど」



 舞ちゃんと同じじゃないですか。なんなの、これ。流行ってるの?



「私はそろそろ答えを出しても良いかなって思ってるのよ。透哉のこと、嫌いじゃないもの」

「そうなんだ。私も告白されたけど、まだ答えが出ないのよね」

「佳山君?」

「佳山? 誰だっけ」

「莉奈ちゃん……同じクラスの佳山悠季くんだよ」

「ああ、なんかいたかも。へぇ、アイツに告白されたんだ」

「うん。嫌いじゃないし、話してて楽しいんだけど……まだなんか一歩踏み込めなくて」

「あー、分からなくもないわね」




 なんか、この二人と一緒にいると告白しようと思って悩んでる自分が悲しくなるわ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る