第12話




 2月12日。


 あれから数日間、私の心臓はバクバクしっ放しだ。

 このままではいずれ心筋梗塞で倒れてしまうのではないかというくらい。

 来る日も来る日も梨里の事を考えている自分がい た。


「あと2日……」


 講義中も梨里の事を考えている。

 サークル活動中も、自宅での勉強中も。

 友達と飲みに行っている時も、お風呂のときも、食事中も。


 夢の中でさえ、私は梨里の事ばかり考えていた。


 私の頭はどうかしてしまったのだろうか。

 逢った事も無い、SNSで知り合っただけの女子高生。

 もしかしたら私は騙されているのではないか?

 14日のバレンタインという特別な日に、SNSで知り合った女子高生に逢いに行くという行為。


「梨里ちゃんは……そんな子じゃない……」


 最近はいつもこんな感じだ。

 メールやSNSでは明るく振舞っているが、心のどこかで不安が拭えないでいる。

 笑われるのではないか。

 複数の知らない人間が待ち構えていて、私を嘲笑うのではないか。

 出会った瞬間に嫌われるのではないか――。


「ああもう……! どうしてこんなに不安なのよ……!」


 理由は明白だ。

 『好きになってしまったから』。

 四六時中彼女の事を考えているから。

 同性の、逢った事も無い女の子を、好きになったから――。


 駄目だ。

 絶対に気持ち悪がられる。

 『友里』と言う名の私が本当に『百合』になった なんて。

 笑い話にもなりはしない。


「はぁ……。鬱だ……」


 気持ちを伝えたい。

 でも伝える勇気が無い。

 当然だ。 はっきり言って気持ち悪い。

 もしもこれが他人事だったら、私は絶対『気持ち悪い』と言うだろう。


 しかし、それが自分に訪れてしまったのだ。

 『女の私が女の子を好きになってしまった』。

 親はどう思うのだろう。

 今まで付き合った事のある男性らはどう思うのだろう。

 愁人は?

 由紀子や美香は?

 私を軽蔑する?

 友人を、辞める――?


「だああああ! 駄目だ! 駄目駄目! 絶対駄目! 『想い』なんて伝えちゃ駄目だ私!」


 あまりにも犠牲にする物が多過ぎる。

 同性愛者のサイトも隈なく調べたが、ハッピーエンドで終わっているカップルは非常に少なかった。

 やはりしがらみがあるのだ。

 生きていくのが辛くなる。


 でも――。


 もしも、梨里が。


 私の気持ちを受け入れてくれたのなら――。


「だから! それが駄目だって言っているでしょう友里! まだ高校生の梨里ちゃんを変な世界に巻き込んでどうするのよ! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! 大事なんでしょう貴女! 梨里ちゃんの事が……凄く……! 大事……なんでしょう……?」


 いつの間にか涙を流している。

 ホント、気持ち悪い――。


 思考が巡る。

 同じ思考が何度も何度も何度も。


「……はぁ……どうしよう……」


 ……断ろうか。

 『急な用事が出来ちゃった!』とか言って。

 『ごめん! 彼氏とその日デートなんだ!』とか言って。


 きっと幻滅されるだろう。

 梨里ちゃんはきっと約束を破られるのが嫌いだろう。

 彼女は純粋すぎる。

 純粋無垢で、優しくて、ちょっとおっちょこちょいで――。


「――そして、私の大好きな人……」


 今日も一日こんなことを考えて。

 同じ思考が巡って一日が終わるんだ。


 もう、どうしたら良いのか分からないよ……。

 今までで一番苦しい恋――。


 こんな事なら――。


 ――彼女と出逢わなければ良かったのにと――。







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