第10話
『いえーい! 盛り上がってるかお前らー!』
都内のカラオケ店。
マイクを持ちながらも愁人は会場を盛り上げている。
参加したのは愁人と彼の男友達2名。
そして私と由紀子と美香で計6名。
「し、愁人さん……格好良い……///」
隣に座る美香がお祈りポーズで目をキラキラとさせている。
「(ちょっと美香……! 抜け駆けは絶対に許さな いからね……! 『鏡愁人ファンクラブ』の会員としての自覚を忘れないでよ……!)」
反対側に座る由紀子が食って掛かる。
はぁ……。
この2人は相変わらずよね……。
「あ……。ゆ、友里さん……。な、何か飲みますか?」
向かい側の椅子に座っている愁人の友人Aが緊張した面持ちで話し掛けてくる。
「うーん。じゃあ烏龍茶で」
『おいおい友里……。酒好きのお前がここで烏龍茶だあ? お前の分は俺が奢るんだから好きなの頼めよ』
マイクを持ったまま会話に混ざってくるアホ金髪。
「いいの。今日はもう飲んで来ちゃったから。私が休日はお酒飲んじゃうの、知っているでしょう愁人」
顔を近づけてくる愁人の顔を由紀子達に向けてやる。
きゃーのきゃーの騒ぐ腐女子2人。
日本は相変わらず平和です。
と、良いタイミングで携帯のメール着信音が鳴る。
「あ……。ちょっと失礼」
そのまま愁人を由紀子達に任せ、私は外の待合室へと向かう。
きっとリリーちゃんからの返信だ。
私は胸を高鳴らせ、画面を開く。
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来週なんですけど、14日とかどうですか?
14日の、午後。お昼くらいに○○駅で待ち合わせとか、大丈夫でしょうか。
私、今からものすっごく楽しみです! お食事したあと、ショッピングとかしたいです!
それで、時間があれば映画とかカラオケとか、色んなことしたいです!
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ニヤニヤしながらメール画面を覗いている私。
カウンターから店員が不審そうな表情で私を見ている。
それに気付いた私は背を向け、再度リリーのメールに視線を落とす。
もしかしたらSNSの方にも連絡が来ているのかも知れない。
帰ったら早速確認しなくては……!
「い、色んなことしたいって……!」
最後の一文だけやけに気になってしまう私。
いやいやいや。
そういう意味じゃないだろう!
でも食事したあとにショッピングと映画とカラオケかぁ。
結構帰りが遅くなってしまうかも知れない。
終電に間に合わなかったら私の車で送ってあげようかな。
というか高校生なんだから門限とかあるかも知れないし。
一人暮らしの私とは違って色々制限もあるんだろうな。
ああ、でも家まで送るついでにご両親にご挨拶もしたほうがいいかな。
女同士なんだもの。
遅くなってしまったら私の方からお詫びを入れれば大丈夫かもしれない。
「食事……ショッピング……映画……カラオケ…… 車……密室…………はっ!」
私の独り言に店員があからさまな咳をする。
聞き耳立ててんじゃない!
暇なら掃除とかしてればいいじゃんかよ!
私はそそくさと化粧室の方へと逃げ込む。
◇
鏡の前に立ち、頬が赤く染まっている事に気付く。
やっぱり私……梨里ちゃんの事……。
そしてドキドキしながら返信を送る。
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来週の14日ね!
分かった予定空けとくね!
リリーちゃんは門限とか大丈夫なのかな……。
あんまり遅くなるようだったら、わたし車持ってるから家まで送って行くよ!
あー、楽しみだなぁ……w
どんなお洋服を着ていこうかなぁ……。
着ていく服の色とか合わせたいから、教えて貰えると嬉しいです!
リリーちゃんならやっぱ白が似合うのかな。
ショッピングも凄く楽しみだよ!
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送信ボタンを押す手が震えている。
まるで初恋をしている少女の様だ。
この歳で初恋って……。
相手は同じ女の子なのに……。
しかも年下で高校生なのに……。
「やばいやばいやばい。友里! しっかりしなさい! あんたマジやばい! その目は恋する目じゃないのよ!」
鏡の前の自分を叱責する私。
落ち着け。落ち着くのよ友里。
鼻息荒くなってるわよ友里。
駄目。
あかん。
これはお酒飲まないと、やってられない――。
そして結局その日はカラオケでも飲んだくれてしまった訳で――。
◇
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