異世界で勇者やってます、帰りたい……

シュタ・カリーナ

第1話

 ある日俺は異世界に召喚された。

 それはもう喜んだ。


 夢にまで見た異世界だっ、よっしゃ無双するぜと意気込んでいた。


 しかし、特にこれといったハプニングもなくただ普通の日々が続いていた。

 モテるかなと思ったがモテてる気配なし。

 無双できるかなと思ったが敵強すぎ。


 ヒロイン? 異世界? 無双?

 何それ美味しいの?


 城で二ヶ月ほど鍛え、王国が招集していた剣聖と賢者と共に魔王討伐の旅に出た。

 ラノベだったならば剣聖や賢者は女性で戦いの最中に恋に発展するだろうが残念、どっちも男だ。


 剣聖はひょろっとした青年だが素早い動きで相手を翻弄し切り裂く剣の達人。

 賢者はその名に反して筋骨隆々とした四十代手前のおっさんだが魔法の技術は随一。


 これでどう、ラノベればいいのだ? ん?

 教えてほしい。


 なんやかんやで魔王城手前まで来た。

 召喚された時に比べだいぶ強くなった。

 いよいよ魔王討伐。

 俺は最後の希望の魔王と恋に発展することを願って、魔王城に足を踏み入れる。


 ◇◇◇


「はぁーーーーーーーーーー」

「おいどうした、魔王を討伐したってのによぉ」


 魔王は男だった。

 これで恋は発展しない。いや、してほしくない。男の魔王と恋だなんて誰得? 明かに俺得ではない。


 だが魔王の娘がいた。それはよかった。

 魔王に『せめて娘だけは……』といわれたので、本当に最後の希望を持って保護することにしたのだが……


「パパぁ……うっ、ぐすっ」

「「「……」」」


 可愛い可愛い女の子だった。

 年は十歳だという。


 恋に発展するわけないだろ、くそったれ。

 俺はロリコンではないのだ。

 それに父親を殺され、この娘も賢者と剣聖に殺されそうになった。なんとか俺が娘を保護するのだが、とても恋に発展するとは思えない。

 むしろ成長した時に復讐されそうだ。


(はぁーーーーーーーーーー)


 俺は心の中で深いため息をつく。

 なぜ異世界に召喚されたと思ったら誰とも恋に発展せずに男と旅をしなければいけないのだ。


 王城に帰った。

 王に魔王討伐を伝え、魔王の娘を俺が保護すると伝え、褒賞やらなんやらあった。


「それで陛下、地球に帰るにはどうすればいいのですか」


 俺はこうなったらと地球に帰って現代ファンタジーを始めるために帰り方を聞く。もちろん娘も連れて行く。


「あ、ああそれなのだが……」


 なぜか歯切れが悪い。まさか……


「その帰り方についてなんじゃが、全くわからんのだよ」

「最初に必ず帰れるとおっしゃてましたが」

「あれはその、お主を安心させるためというか、な? 文献を調べて探してもなかったんじゃよ。すまぬっ」


 俺は限界を迎えた。


ブチっ


 俺の堪忍袋の尾が切れた音かも知れない。


「ふざっけんなよクソじじいっ!! なぁにが『すまんっ』だ!! アホか!! 帰れるならと俺は頑張ってきたんだよ!! せっかく異世界に召喚されてっ、恋も始まるかなと思ったら男ばっかりっ、それなら無双もできるかなと思ったら敵強いしっ、魔王の娘はまだ子供だしっ、復讐されるかもだしっ、挙げ句の果てにっ、地球に帰れないしっ、ふざけてんのか!?」

「すみませんーーーー!!」


 王が土下座する。

 大臣たちもそれに続いて土下座する。


 だが知らんっ!!


「謝って済む話じゃねえんだよっ!! 謝って済むなら警察いらねえんだよっ!!」

「すみませんすみませんすみませんっ」


 十二歳の王女も土下座している。


「そ、それなら娘を差し上げますのでっ」


 王が十二歳の娘を差し出す。


「いらねえよっ!! 自分の娘だろっ、道具に使うなよっ、お前に親の心はないのかっ!! それになっ、俺は俺のことを好きなやつと恋をしたいんだよっ。好きでもない人と恋なんかしたくねぇ!!」

「ひぃ!!」


 王はただただ怯える。


「落ち着けってハクト」

「落ち着けるかーーーーー!! お前いいよな妻子持ちでよぉ!! ああ!? 喧嘩売ってんのか!?」

「うぐっ」

「おいハクトっ」

「いいよなお前もっ!! 行く街全てで告白されてよぉ!!」

「うぐっ」

「くそったれーーーーーーーーーー!!!!」


 俺は剣聖と賢者も黙らせて暴れる。


「ハクトさんっ、落ち着いてくださいっ。私が、ハクトさんの、お嫁さんになりますからっ。復讐もしませんからっ」


 魔王の娘が俺に抱きつきそう言う。


「お前は悪くないんだ」

「私ハクトさんのことっ、好きですからっ」

「……嘘はよくないぞ? お前は巻き込まれただけなんだから」

「大きくなったら、ハクトさんと、結婚しますからっ。落ち着いてくださいっ」


 とりあえず落ち着くか。

 王の間は俺の魔力にあてられヒビが入り、大臣たちも気絶しているものがいた。

 ちょっとやり過ぎた感があるが知らん。

 王たちはなんとか気絶はしていないものの肩で呼吸をしているほど疲労していた。


「もういい、俺が帰る方法を探す。だから全ての文献を寄越せ」

「かしこまりましたっ。おいお前らっ、図書室にお連れしろっ。全ての閲覧許可を出すっ。急げっ」

「はっ」


 王が支指示をだし部下がすぐさま動く。

 俺は図書室に向かう。


「あの勇者様」

「なんだ?」


 王女が俺に話しかける。


「私もあなたのお嫁さんにしてくださいっ」

「断る」

「そんなっ」

「言っただろ、俺は自分のことを好きじゃないやつと恋はしないって」

「私はその言葉で惚れましたっ」

「は? マジで?」

「はい、マジです」

「だがなぁ、俺帰るし」

「ついていきますっ」

「断る。お前はこの世界が好きだろ」

「ですがっ」

「じゃあな、邪魔するなよ」


 そうして俺は図書館に篭った。


 ◇◇◇


 三ヶ月が経った。

 独自で時空魔法を発明し、転移魔法を作り異世界を行き来する魔法も作った。


「やっと帰れる」


 自由に異世界を行き来できるようになったので、またこの世界に来るつもりだ。魔王の娘も王城に任せて、たまに顔出ししよう。戻ってこれないなら連れて行くが、戻ってこれるならばわざわざ地球で面倒なことをしなくていいだろう。


「じゃあな」

「はいっ。すぐ、戻ってきてくださいねっ」

「ずっと待ってます。私の勇者様」


 二人とは結婚することになった。しかし正式に結婚を決めるのは彼女らが十五になったときだ。


 俺は異世界を行き来する門を作る。あとはここを潜るだけで地球だ。


「ただいまぁ 母ちゃんー!!」


 俺はやっとの思いで帰郷する。

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